手向けの化粧ず

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 次に目を開けた時、眼前にあったのは自宅の天井だった。  手足の指先が冷たくなっている。意識がはっきりするのを待ってから、ゆっくりと起き上がった。 ――またか――  大きく溜め息を吐いてから、乱れた髪を掻き上げた。そして、少し離れた机の上に置かれた大判の封筒を見やった。昨夜、うっかり手袋をせずに受け取ってしまったためだろう。近頃は気を付けていたのに、と心の中で舌打ちをした。  子供の頃から、遺品などに触れると、その故人の記憶を、断片的に夢に視ることがある。  やっかいなことに、一度夢に視てしまった故人の記憶は、その「未練」の核心を突き止めるまで付きまとう。どうやら、夢に視るのは、その故人に何かしらの未練がある時だけらしかった。  なぜそんなことが起こるのかは分からない。ただ、自分の視る「夢」が故人の記憶であるということだけは、実証済みだ。
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