1・『三味線の皮にしちゃうよ!』

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1・『三味線の皮にしちゃうよ!』

ユキとねねことルブランと 栄町犬猫騒動記 1・『三味線の皮にしちゃうよ!』 大橋むつお 時  ある春の日のある時 所  栄町の公園 人物 ユキ    犬(犬塚まどかの姿) ねねこ    猫(三田村麻衣と二役) ルブラン   猫(貴井幸子と二役) 闇の中、猫たちの無秩序で無統制な声々しばらく続く。「おだまり!」とルブランの凛とした一声で、水を打ったように静かになる。同時に、舞台明るくなる。舞台は栄町の公園。中央に、この町の高校二年生、貴井幸子の姿をしたルブランが、舞い散る桜吹雪の中、猫達(姿は見えない)を睥睨している。 ルブラン: おまえたち、いいかげんにしないと、三味線の皮にしちゃうよ!(猫達のしょげた声) ルブランの携帯が鳴る。手にしたラクロスのスティックを持ちかえ、腰につけた大そう立派なケースから、美しい携帯を出す。同時に猫達に「あっちにおいき」とあごでしゃくる。猫達の気配ほとんどなくなる。 ルブラン: ……いいこと、あなたはわがままだったのよ。どうしようもなくね。因果応報、むくいよ……だめ! 今ごろ泣きごと言ったって。恨むんだったら、自分を恨みな。人のことをちっとも考えない。自分の気持ち、欲望だけ。最低だったわよ!! そんなあなたに、終止符を打ってあげたの。エンドマークを出してあげたの。反省……? しても遅いわよ。もう人間として生きていく資格なんかなし! 世界のためにも、これしかないの! これからは、わたしがやるわ。あなたに代わって……そう、泣けばいい、わめけばいい。もう誰にも聞こえやしない。そうやって、自分の愚かさとみじめさを思い知るがいい! ホホホ……じゃ、またお話しましょ。これからは何度でもいたぶってあげる。もう少しあなたの心をえぐってやりたいけど(人の気配を感じて)じゃ、またね……。 携帯のスイッチを切り、上手方向に目線を残しながら下手に去る。二三匹居残った猫が「ニャー」と後を追う。いれかわりに、同じ高校二年生の犬塚まどかの姿をしたユキが、声をひそめ、まどかを探しながらあらわれる。 ユキ: まどか……まどか…………まどかったら……どこ行っちゃったのよ。まどか……たまんないよ、ほんとに……まどか! たのむよまどか……どうすんのよ、こんなになっちゃって……まどか! 冗談じゃないわよ……お願いまどか。出てきてまどか……出てきてちょうだい、まどかあ…… 同様に、同じ高校二年生の三田村麻衣の姿をしたねねこがあらわれる。背中に大きな水鉄砲を背負い、腰にチャラチャラとひかりもの、鞄を手に、首にブタの人形を下げている。 ユキ: まどか……まどか……(ねねこに気づき)ユキ、ユキ……どこにいるの、犬塚さんちのユキ…… ねねこ: なにやってんの? ユキ: あ、麻衣……いつからそこに? ねねこ: ついさっき。公園の前を通ったら、まどかの姿が見えて……何か探してんの? ひょっとして…… ユキ: ユキ、ユキ探してるの。目が覚めたらいないの。庭の柵が開いていたから、一人で散歩に出かけちゃったんじゃないかと思うの。 ねねこ: それは心配ね。まだ子犬なんでしょ? ユキ: うん、一才ちょっと……人間でいえば、わたしたちくらいかな。 ねねこ: へえ、もう一才過ぎたんだ。 ユキ: 小柄な子だから……でも、雑種のノラ犬、賢い子だからそう心配はないと思うんだけど……。 ねねこ: へえ、ユキってノラだったんだ。 ユキ: お母さん、動物嫌いのくせに見栄っ張りだから、紀州犬だって言ってるけど。ほんとは、お父さんが酔った勢いで、この公園で拾ってきたの。 ねねこ: そうなんだ。 ユキ: で、けっきょく、わたしがユキの世話係ちゅうわけよ……おーい、ユキいいいい…… ねねこ: まどか、今日は、ちょっと久しぶりだよね? ユキ: そう……? ねねこ: このふた月ほどは、ろくに顔もあわせてないよ。 ユキ: そう? だったらごめん。 ねねこ: ひょっとして、麻衣のこと敬遠とかしてる? ユキ: ううん……たまたま。 ねねこ: たまたま?……はっきり言いなさいよ。そういうずるい言い方嫌いだし、あたし。ほら、また目線が逃げる。何か思ってる証拠。かまわないから、はっきり言って。 ユキ: えと……じゃ、このごろ麻衣、変わっちゃったりしてない? ねねこ: あたしが? ユキ: うん……派手になったつうか、お化粧とかもしてるし、ジャラジャラひかりもんとかぶら下げてるし……それはいいんだけど、学校でも、よく居眠りとか、ちょっと気むつかしくなった感じ……? ねねこ: ふーん…… ユキ: はっきり言えっていうから……気ィ悪くしたらごめんね。 ねねこ: ううんいいよ、気にしてないから。あたしもいっしょに探してあげようか? ユキ: いいよ、そんな…… ねねこ: いいよ、探してあげるよ、行方不明のまどかのこと…… ユキ: え……!? ねねこ: 実は、ずっとさっきから、あんたのことはわかっていたのさ。あんたの探しているのは、犬のユキなんかじゃない。人間のまどかだ! どうだい、違うかい? 犬塚まどかさんちの飼犬のユキさんよう…… ユキ: キャイーン……!
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