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彼女は状況を頭で理解するよりも早く、承諾の意を込めて頷いていた。明らかに怪しい男。しかしこの男なら自分の希望を叶えてくれると無意識に確信させられていた。
これはこの男が持つ人智を超えた何かによるものなのだろう。
自分を置き去りに話を進める二人に、さすがの店主も我慢ならなくなったようだ。
「これは一体なんの真似でし……」
「チッチッチ。もう君の出番はありまっせんよ」
店主がカウンターから乗り出そうとしたその瞬間、紫スーツの男は、人型の白い紙を店主の額に押し付けた。
すると……店主は急激に生気を失っていき、朽ち果てるようにボロボロと体を崩壊させていった。そして、最後に残ったのは……砂のような残骸と膨大な桁数が記載された人型の紙だけだった。
「全く、彼は商売というものを全くわかっていまっせんね。恨まれるなんて以ての外ですよ」
そう独り言を呟く男。それから仮面を外し、立ちすくむ積野に向かい微笑んだ。
「では早速お話を……と言いたいところですが、一つお願いがありまっす。一緒にこの店内の掃除を手伝って貰えまっせんか? 開業予定の私の店がこんなに汚れてしまったのでね、フフフ」
男は少しおどけながら、床に広がる残骸を指差した。
――こうしてこの時より、謎の男がこの店の新たな店主となった。
はて、この男は一体どのような商売を始めるのでしょうか。それはまたのお楽しみです。
完
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