本番前のVS

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本番前のVS

 鎌田美緒女流三冠は一輝達との研究会が中止になり、また小夜も次局の女流皇座戦で記録係となる事が決定し、将棋の練習相手がいなくなり、思い切って、女流最強である宮里春香女流三冠とネット対局でVSをする事になった。  宮里も了承して、お互いに忙しい合間を縫ってはネット対局でのVSを繰り返す事となった。  そして女流皇座戦の次局が迫っている中、最後のVSを今まさに行っていた。最終局面であり、鎌田は挽回不可能と見て投了のアイコンをクリックし、投了の言葉を口にした。 「負けました」  投了の言葉を口にしてから、今度はLINEで宮里に対し、投了の言葉を送り、そのまま感想戦に入る。 『負けました』 『ありがとうございました、それじゃあ感想戦を』 『じゃあ初手からお願いします』  パソコンの画面も感想戦モードになっており、そこで駒を動かしながら、やり取りを繰り返すが宮里がある提案をする。 『せっかくだし、AIの分析もクリックしてみては?』 『そうですね、推奨手とかも確認しつつ』  宮里の提案でネット対局のサイトにあるAI分析もクリックしながら更にお互いに考えを述べて、感想戦も終える。 『今日までありがとうございました、あとは自力で詰めていきたいと思います』 『こちらこそありがとうございました、またタイトル戦でお会いしましょう』 『ええ、防衛して待っています』  今回は臨時でVSをしたが、宮里は本来タイトル戦で何度も当たってもおかしくない相手であり、VSでもその実力の高さを鎌田は痛感していた。  女流タイトルホルダーは現在自分と宮里しかおらず、しかも自分は女流棋士ではない奨励会員だ、現在タイトルを保持していない伊原聡子女流三段にも苦戦を強いられており、今回の番勝負はかなり追い込まれているという心理がある。  そして数日ではあったが、自力で研究を行い、次局の前夜祭の前日の夜を迎えていた。  タイトル戦そのものは1日で終了するが、タイトル戦には前夜祭、そして検分があり、前日に現地入りすることになっている。  宿泊の為の荷物の準備を終えて、そろそろ就寝しようかと思った頃に、鎌田はスマートフォンから電話をかける。 「もしもし、お父ちゃん」 「美緒か、明日タイトル戦の前夜祭じゃなかとね?」 「だからよ、現地入りしたらスマホを預けにゃならんし」 「そんでどげんしたと?」 「あんな、やっぱうちまだ棋士あきらめとうない、だから頑張るけん」 「そっか、美緒がそう言ってくれたなら、お父ちゃん、安心ばい」 「そんじゃ、おやすみ」  鎌田はそう言ってスマートフォンを切り、そのまま就寝する。
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