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 いよいよ女流皇座戦第三局の前日を迎え、鎌田はまず将棋会館へと向かった。そこでまず関係者と合流する為だ。  普段の電車に乗り、鎌田が将棋会館に到着すると車が数台、そして関係者も数名集まっていた。 「おはようございます」 「おはようございます」  関係者の中には対局の立会人として一輝の師匠である諸見里武夫九段がいた。タイトル戦の立会人は基本的に無冠の九段から選出され、タイトル戦の行われる地域と結びつきが強い棋士が選ばれやすいのだ。  スケジュール等の都合が付きにくい場合は八段の棋士から選出される事もあるが、基本は九段の棋士がタイトル戦の立会人を務めるのだ。  そして本日理事からは佐渡高文会長が同行することになっている。  タイトル戦は1局ごとに、理事から1名同行する事も決まっている。今回佐渡会長が選出されたのもタイトル戦を行われる旅館が神奈川の陣屋であり、関東圏という事もあり、タイトル戦の開始を見届けてからすぐに将棋会館に戻り、会長の仕事に取り掛かれるのが大きいのだ。  他にも主催者の新聞社の関係者や記者、協賛企業の社員など様々な人物がいて、記録係の小夜も既にいて、挑戦者である伊原聡子女流三段もいた。 「調子はどうだ伊原さん?」 「黒木君、そういえば今回が初めての大盤解説なんだっけ」 「まあな、俺は結構暇だったのに、何故か大盤解説も長谷君の方が早かったもんな」 「ふふふ、大盤解説の速さより長谷先生に勝てるよう頑張ったら?」  伊原は奨励会時代からの旧知の仲である黒木との会話で少しリラックスしているようだが鎌田はまだ緊張、そして不安もあった。鎌田にとってはもうタイトル戦は初めてではないがここ最近の出来事も心身に負担があったのだ。  そんな中、関係者達は全員揃ったのが確認され、それぞれ車に乗っての移動になった、もちろん対局者同士は別の車での移動だ。  新幹線や飛行機での移動だと離れた席での移動にもなり、対局者同士はなるべく離すように配慮されているのだ。  そして車は神奈川県陣屋の旅館にたどり着いたのだ。陣屋は古くから将棋のタイトル戦が行われている旅館であり、将棋関係者にとっては馴染み深い場所なのだ。 「ようこそ皆様おいでくださいました、さあ、どうぞこちらへ」  女将に案内されて関係者一同は旅館に入り、鎌田と伊原はそれぞれスマートフォンを旅館のロビーに預ける。  タイトル戦は普段の対局以上に不正防止に厳しく、早めにスマートフォンを預けるのだ。そして一同は対局室へと向かう。
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