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前夜祭で
対局室に到着すると既に将棋盤が用意されており、対局用の駒も数種類用意されていた。タイトル戦では主催者が用意した数種類の駒から対局者が音や肌さわり等を確認しながらどの駒を使用するかを選択するのだ。
早速鎌田と伊原はそれぞれ数種類の駒の音等を確かめていて、立会人の諸見里九段に話しかけている。
「私はこの駒がしっくりきますね」
「私もです」
「ふむ、部屋のエアコンに関してはどうします?」
諸見里よりエアコンの温度について尋ねられてまずは現在の温度を確認する。
「ええと、今は暖房で20℃ですか」
「今の季節ならそれくらいがいいと思います」
「私も大丈夫です」
「ふむ、それじゃあ他は……」
他にも対局中の外からの日差しや窓の開閉等について話し、検分は終了する。
検分が終了しそれぞれ自室に戻り、鎌田も部屋で過ごす事とする。
タイトル戦での宿泊先ではスマートフォンやパソコンは事前に預ける為、ネット等を見る事はできない。
対局者はテレビ等も見る事は出来ず、鎌田はとりあえず持ち込みの許されている詰将棋の本を読みながら過ごす事とする。
そして旅館の関係者が鎌田の客室に訪れ、もうすぐタイトル戦の前夜祭が開始する事を伝える。
「失礼します、鎌田先生、間もなく前夜祭ですので会場までおこしください」
「あ、はい」
旅館関係者より呼ばれて鎌田は旅館の大広間の前で挑戦者である伊原聡子女流三段と出番を待つ。
そしてついに2人の出番が近づき、会場内より呼ばれる。
「それでは対局者のお2人にご入場していただきます、鎌田女流皇座、伊原女流三段、ご入場をお願いします」
司会者に促された両対局者は会場に入場し、拍手で迎えられ、会場の前方に立ち、参加者に対し頭を下げる。
「それではまず、両対局者に花束の贈呈です」
小学校の中学年ほどの女子児童が司会者の言葉と共に現れて両対局者に花束を渡す。
花束を受け取り、その模様を写真撮影すると会場では拍手が沸き、2人はすぐに花束を旅館スタッフに預ける。
「それでは、両対局者より意気込みを聞いてみましょう、まずは鎌田女流皇座から」
マイクをスタッフより渡され、まずは鎌田が意気込みを語る。
「ええ、本日はお越しいただきありがとうございます。そうですね、練習の成果をだしていければと思います」
「ありがとうございます、続けて伊原女流三段お願いします」
「伊原です、タイトル戦はでるのも難しいので、少しでも良い将棋ができるようにしたいと思います」
「ありがとうございます、それでは対局者の方はここでご退場となります、皆様もう一度両対局者に拍手をお願いします」
対局者は前夜祭はちょっとした挨拶のみの登場にとどまり、すぐに翌日の対局に備える為に部屋に戻るのだ。
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