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展望を語る棋士
前夜祭を早々に退場した両対局者だが、会場では引き続き前夜祭が行われており、会場の前方には立会人の諸見里九段、理事として同行した佐渡会長、大盤解説担当の黒木四段達数名の棋士、そして記録係の小夜もいた。
「皆様には本局の展望をお聞きしたいと思いますが、まずは立会人の諸見里九段からお願いします」
「そうですね、ここまで1勝1敗と展開してますし、勝敗予想は難しいし、戦型予想も難しいですね」
「とおっしゃいいますと?」
「はい、鎌田女流皇座は純粋居飛車党で、伊原女流三段は力戦居飛車、対抗系の振り飛車、相振り飛車と様々な戦型を差しこなしますからね」
諸見里は発言後、これまでの番勝負の戦型を振り返ったうえで自らの予想を言い放つ。
「1局目は先手が伊原女流三段で四間飛車を選択し後手の鎌田さんが居飛車穴熊で対抗し鎌田さんか先勝、そして2局目は先手が鎌田さんで矢倉を目指しましたが伊原さんの急戦策が功を奏し、伊原さんが1勝を返しましたね」
「そうすると3局目の予想は?」
「伊原さんは振り飛車を採用するかもしれませんね、今度は穴熊を警戒して急戦志向だと思います」
「ありがとうございます、続けて会長の佐渡九段はいかがでしょうか?」
前夜祭の司会者は続けて佐渡会長に話をふり、佐渡会長は答える。
「うーーーん、鎌田さんは居飛車で行く事以外は分かりませんが、もしかしたら伊原さんの出方で後手番でありながら作戦を変えるかもしれませんね」
「とおっしゃいますと?」
「本番勝負は2局ともいまだに後手勝ちです、普通は先手が作戦選択をしやすいのですがそれを上手くお互いに外している印象ですね、伊原さんが振り飛車なら対抗系でしょうが、序盤に居飛車と確定すれば後手番の鎌田さんから一手損角換わりとかをするかもしれませんね」
「ありがとうございます、それから……」
その後数名の棋士にも戦型予想を聞き、全員に聞き終えると再び、前夜祭のパーティーは再開され、食事等を楽しんだ。
関係者やファンと話す棋士がいる中、小夜に声をかける母と娘の親子ファンがいた。
「あの、牧野先生いいですか?」
「あ、はい、何でしょうか?」
「実はこの子、牧野先生のファンでして、サインとかお願いしてもいいですか?」
「はい、ええっと……」
小夜は女の子から名前を呼ぼうとするが初対面なので浮かばずにいると女の子から自己紹介をする。
「こんにちは鶴美奈です」
「美奈ちゃんね、何にサインすればいいかな?」
「このノートにお願いします」
「はい、これでいい?」
「ありがとうございます」
「牧野先生、この子そのノートに牧野先生の棋譜を書いているんですよ」
「そうなんですか?ありがとうね美奈ちゃん」
「牧野先生、私女流棋士になったら牧野先生とタイトル戦がしたいので頑張っていつか鎌田先生や宮里先生に勝ってください」
女流棋士を目指す女の子の言葉を聞き、小夜は嬉しくも複雑な気持ちであった。高校卒業までにタイトルを獲得できなければ女流棋士を引退するからである。
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