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師匠の望み
プロの将棋棋士として四段昇段を決めた長谷一輝は師匠でプロ棋士の諸見里武夫九段より昇段祝いをするという話を聞き、諸見里の自宅を訪れ、諸見里の妻に促され家へと入っていく。
大広間へと入っていくとそこには師匠である諸見里九段と既にプロ入りを決めていた兄弟子たちがいた。
「おお、待っていたぞ。一輝」
「本日の主役様のご登場だ」
師匠や兄弟子たちの言葉を受けて一輝が言葉を返す。
「お待たせしました」
「いいから早く座れよ」
兄弟子に促され自分の席に座り、料理が揃うと兄弟子の1人が乾杯の音頭を諸見里に促していた。
「それじゃあ師匠、乾杯の音頭をお願いします」
「わしがか、仕方ない」
少し緊張しているのか諸見里は息を飲みこんでから乾杯の音頭を取る。
「ええ、それでは我が諸見里門下より新たなプロ棋士の誕生を祝してかんぱーーい!」
「かんぱーーい」
そうして乾杯を終えると、各々がおもむろに料理を食べ、飲み物を口に運んでいく。
そんな中諸見里が一輝に言葉をかける。
「一輝、わしはお前ならプロになれるとは思っていた。だが、お前がどこまで伸びるかは想像がつかん」
「師匠……」
「わしの望みとしてはお前と順位戦で師弟対決ができれば良いと思っておる。待ってるぞ」
「はい!」
順位戦とはA級、B1級、B2級、C1級、C2級というクラスごとに6月から翌3月までかけて同クラスの棋士と対局を行い、成績に応じて昇級者、降級者を決定するのだ。その事に関して兄弟子の1人が師匠に対しツッコミを入れる。
「でも師匠、師匠って確か今B2じゃなかったですか、B1以上じゃないと師弟対決ができないから師匠もB1にあがらないとだめですよ。あ、でも今年の成績じゃ……」
兄弟子の言うように師弟並びに兄弟弟子対決はB2以下のクラスではできない為、諸見里自身もB1以上に所属しないと師弟対決は成立しないのだ。
その兄弟子のツッコミに諸見里が強く言い返す。
「そんなことはお前に言われんでも分かっとるわ!そもそもC1でくすぶっているお前に言われたくはないわ」
「師匠、ひどいっす」
「お前がわしをバカにするからだろう。悔しければ這い上がってこい!」
こういったやり取りを繰り返して時間が経ち、一輝が師匠に申し出る。
「師匠、明日は学校なのでこれで失礼します」
「おお、そうか。家は近いが気を付けて帰れよ」
「はい」
そう言って一輝が諸見里邸をあとにし、スマートフォンを取り出すと見覚えのある人物より着信があり、恐る恐る掛け直す。
「もしもし」
「遅いわよ、何回かけたと思っているの!」
「悪い、ちょっと師匠の所で昇段祝いをしてもらってたから」
「諸見里先生の所?ひょっとしてもう帰った?」
電話越しでの少女の問いに一輝が答える。
「いや、まだだけど」
「それなら、近くに公園があるでしょ、そこに来てくれる?」
「いいけど、なんでだ?」
「それは来てからのお楽しみ」
突如一輝に電話をしてきた少女。この少女との関係とは?
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