Ⅰ 、雨

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バタバタと走りながら玄関の扉を開け、部屋の中に入る。 窓ガラス越しに、雨に濡れた洋服たちがベランダに下がっているのが見えた。 「最悪だ……」 「あちゃー、これはもう無理だね」 「いや、あそこから走ったってもう間に合わないのは分かってたけどさ……なんか、負けた気分」 「なにに負けたの」 「知らんけど。あーもうやる気失せたわー」 部屋の電気もつけず、雨に濡れた上着のまま、ソファーに身を投げ出してため息を着く。 「まあまあ、そういう時もあるって」「なんで今日に限って天気予報見んの忘れるかなー」 「午前中あんなに晴れてたら、こんなに雨降るなんて思わないよ」 「だよな。あーめんどくせー」 「……どうする、これこのままにしちゃう?」 「は?」 顔だけ上げてユウトの方を見ると、お得意のスマイルでベランダを指さしている。 「いやー、ここまで濡れちゃったらさ、なんかもう取り込むも取り込まないも一緒かなみたいな」 「……なんだそりゃ」 訳の分からない理屈に眉をひそめながらも、あっけらかんとした彼の態度に思わず笑いが込み上げてくる。 「明日休みだしな」 「そうそう、たまにはコウキもサボった方がいいって」 「お前だけはそれを言うなよ。……まいっか」 「よし、じゃあ夕飯買いに行こ。今日はもう、マックにしよう」 「マジで?」 「今日はサボる日、ってことで。あ、お酒も買いたいからコンビニ寄っていい?」 「いや、いいけどさ……」 窓の外では、雨に濡れて重たくなった洗濯物が下がっている。意気揚々と出かける支度をする同居人に、呆れながらも笑みがこぼれて、そのままカーテンを閉めた。
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