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Ⅰ 、雨
雨が降っているのに気が付いたのは、退屈な講義の残り10分で集中力が切れて、何気なく窓の外を眺めていた時だった。午前中はからりと晴れていたのに、空はどんよりと曇って、窓ガラスに雨粒がバチバチと当たっている。
折りたたみ傘が入っていただろうかとカバンを手繰り寄せたところで、終業のチャイムが鳴った。中を漁るが、傘は入っていない。もう一度外を見ても、雨が止む気配はなかった。
ついてない、と思う。
仕方なく濡れて帰ろうかとカバンを肩にかけて立ち上がると、パーカーのポケットの中でスマホが鳴った。
『もしもし、コウキ?まだ大学?』
「ああ。どうした?」
『いや、雨降ってきたからさ、迎えに行こうかと思って』
「お前今日バイトじゃなかったっけ?」
『ちょっと早くあがれたからさ。どうせ傘持ってないでしょ?』
「ユウトは持ってんのかよ」
『うん。もう近くまで来てるから、どうせなら一緒に帰ろう』
「了解、サンキュ」
歩きながら電話を切って、昇降口へと向かう。同じように傘のない学生達が、スマホを片手に憂鬱そうに雨空を見上げていた。上着を頭に被りながら、早足に外へ出ていく者もいる。
「コウキー」
程なくして透明なビニール傘をさしてこちらへ歩いてくる人影を見つけ、軽く片手をあげる。
「はいこれ、折りたたみ傘」
「ありがと」
紺色の折りたたみ傘を広げて、2人は肩を並べて歩き始めた。
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