献上

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「ちょっと、ママ、来て! なんか廊下が汚れてる!」  翌朝。姫様が俺の死闘の痕跡に驚きの声を上げた。 「こっちもよ。嫌だわ、気持ち悪い。あちこちに動物の毛が落ちてるわ」  姫様の母君が、勝手口の前の廊下で顔をしかめている。2階から下りてきた姫様も合流し、一緒に床上に散らばった盗っ人の体毛を眺めた。 「ナイトの毛とは、色が違うよね。ママ、掃除するなら、ゴム手袋嵌めた方がいいんじゃない?」 「そうねぇ」  母君は浴場に消える。  さて、そろそろ俺の出番だ。この死闘の痕を見たら、姫様も、俺の忠誠心の厚さに感動するに違いねぇ。 「おおーい、姫様ぁー!」 「あ、ナイトだわ。ちょっと! あんた、夜中に廊下でなんかやったでしょ!?」  パタパタと足音が近付いてくる。俺は急ぎ、玄関に隠してあった犯人の骸と、昨夜の戦利品を引きずって……彼女の足元に並べた。 「そうなんです、見てください! 俺、ついに盗っ人をとっ捕まえたんですぜ! それと、ホラ! 盗まれた姫様のマフラーとクッションと……」 「キャーッ!! ママぁ! ナイトが大っきなネズミ咥えてるー!!」 「あら。これ、無くなったクッションじゃない。犯人を捕まえたから、あんたに見せに来たのねぇ、麻里(まり)」  流石母君は、分かってなさる。やれやれとふくよかな頰を緩めてくださった。しかし――。 「どーすんのよ、これぇー! バカ猫っ!」  黄色い声は、喜んでいる……訳ではないようだ。俺の忠誠心を姫様に届けるってぇのは、なかなか難しいもんだぜ。 【了】
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