世界一幸せな時とその邪魔

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 僕は今日この日に大切な事を伝えようと思っていた。もちろんその相手は付き合っている彼女にだった。今はそんな彼女とデートをしている時だった。  僕達のデートはかなり変わっていて大体がファミリーちっくなところばっかりだった。しかしこれには諸般の事情からだった。  なので今日も広い公園の子供達がたくさん遊んでいる所だった。そんな所で僕と彼女は遊んでいる子供達を眺めながら木製のテーブルの有るベンチに向かい合って座ってまったりとしている。 「ちょっと重要な話をしても良い?」 「なに? 貸せるお金なら無いけど」  真剣に話しているのに彼女は直ぐにこんな風に冗談を紛れさせてしまう。しかしそんな時の彼女の笑って目を細める姿が僕はとても好きだった。 「一応、それは大丈夫。少々困らない程度の蓄えは有るから。そうじゃなくて誕生日プレゼントの事なんだ」 「一応あたしの誕生日憶えてくれてたんだ。ふーん。ちょっと楽しみだな。歳をとるのは面白くないけど、やっぱりプレゼントって言われるとワクワクするなー」  また彼女は眼を細めている。  彼女の誕生日は昨日だった。本当は当日に会いたかったのだけど、これも諸般の事情いう奴で全く面倒だ。 「と言う事でプレゼントなんだけど受け取ってくれる?」 「要らない」 「え……」  彼女がそんなことを言うので困ってしまうのはこっちだった。しかし次の瞬間に彼女はケラケラと楽しそうに笑った。 「要らないって言う人間なんて居ないでしょ」  そんな風に言うと彼女はテーブルの向こうから僕の方に手を伸ばして見上げる様な視線で見ている。  だから僕は鞄から封筒を取り出してその手に乗せた。 「フーム。軽い。そして薄い。はて? なんぞや?」  そんな風に封筒をじっくりと眺めながら開封しようとせずに彼女は推理をはじめた。 「解った! 現金! ってこんなに薄いと一枚程度か…だとすると小切手? 宝くじの当たり券?」  かなり彼女の推理は飛躍していた。  しかし、僕の用意したプレゼントはそんなに安いものでは無かった。 「良いから開けて確認してみてよ。それから質問を受け付けます」  彼女のお茶目さに僕は全く呆れる事も無く、そして僕からも会話を楽しくなるように話していた。  そんな事を聞いた彼女は僕の顔を見てニコッと笑ってから封筒を端っこからピリピリと破り始めた。ハムスターが向日葵の種を食べる様に細かい作業で丁寧に破っている。  そして彼女は一枚の紙を取り出して、テーブルに肘をついたまんまでそれを見詰めている。 「こんな写真なんか要らないよ」  彼女はそんな風に眉間にしわを寄せながら僕の事を睨む様に、僕の写っている写真を見せていた。  そう、僕が用意したのは僕の写真で、それは彼女と付き合い始めた時に彼女が撮ってくれたものをプリントアウトしたものだった。原価としてはかなり安くついたが、今回のプレゼントはそんなに安いものでは無い。値段は付けられない品物なのだから。 「まあ、そう言わないでプレゼントを受け取ってよ」 「ホントにこんな写真だけなの?」  僕の写真をピラピラとしながら彼女は中々の言い様だった。 「違うって写真じゃなくって写ってるものを君に贈りたい」 「写ってるものって…」  そう言いながら彼女はまた写真を見詰め始めた。しかしどう考えても解らないみたいで目つきは段々と怖い部類のものになってきたので、もう僕はちゃんと説明しようと思った。 「誰が映ってる?」 「君だよ」 「うん。だから俺を贈る」 「どういう事?」  彼女は言葉にはてなマークを付けて話していたが、その時にはちょっと微笑んでいて僕の言っている事をもう理解している様子だった。 「これからの僕の人生を全て贈る。だからずっと側に居てほしい。結婚して」  僕が考えていたのはプロポーズだった。  彼女は僕の言葉を聞いた瞬間にとっても楽しそうに顔を伏せて笑い始めた。 「普通こういうのって指輪とか用意するもんだよ」 「まあ、そうなんだけど、こんなのも有りかなって。ちゃんと指輪も買うからさ。返事を聞かせて」  クスクスと笑いながらも顔を挙げた彼女だったけど、なんか照れているみたいで、僕の写真を使って笑っている口元を隠している。 「嬉しい」  返事はそれだけだったけれどどうやらこのプロポーズは成功した様子だ。僕達はそれからちょっとの間笑顔で見つめ合っていた。 「でも、困った! あたし達はまだ付き合って三か月だよ?」  数秒が過ぎると彼女がそんな事を言った。 「時間なんて問題になるかな? それに時間の事を言うなら俺達は知り合ってからもう二十年になるよ」  彼女と付き合い始めたのはほんの三か月前の話だった。しかし彼女とは幼い頃の知り合いで、三十を過ぎた僕達にとっては人生の半分以上昔から知っている存在。 「でもその内の後半の十年は音信不通だったけどね」  まあ、確かにそうなのだ。僕と彼女は大学進学で離れ離れになって、それから連絡も取る事も無くて、偶然に三か月前に再開して、そこからちゃんと交際を始めたのだった。 「その分俺はその十年を埋める為に深く愛してたつもりだよ。それに会えなかった時も別に君の事がキライだったわけじゃない。俺は二十年ずっと君の事が好きなんだよ」 「それは……」  その時に彼女は明後日の方向を見て呟いていた。 「それは?」  なので聞き返すと彼女は僕の事を睨む。恨めしそうにそして若干照れ隠しをしながら。 「あたしもそうだったから解る……」  そんな風に彼女はまた呟いた。どうやら僕達は同じ様にずっと想いあっていたのにこんなにも時間を掛けてしまった様だ。 「だからさ。結婚して下さい」 「でも……」  またしても彼女は言葉を濁した。そして空を見上げて悔しそうな顔をする。 「あたし達には障害が有るんだよ」 「それは解ってる。だけど、やっぱり君と結婚したい」  そう僕達の結婚はそんなに簡単なものでは無い事くらいは僕もちゃんと理解していた。  すると見計らったかのようにその原因が現れた。 「ママー!」 「おっちゃーん」  二人の子供が彼女と僕に飛びついた。僕の元にはお姉ちゃんが彼女の元には妹ちゃんの、三歳と一歳の姉妹だった。 「子供が居ても本当に君はあたしと結婚したいの?」  この姉妹は彼女の子供達。そんな人に僕は恋をして、そして結婚したいと思っていた。 「もちろん。夫になりたくて父親になりたいんだけど…」  そんな会話をしている僕達のことを見て姉妹は不思議そうな顔をしている。 「さっきも言ったけど、あたしは嬉しいよ」 「ねえ、ママ。なんのお話し?」  するとお姉ちゃんの方が解らなくなったので聞いた。もちろんそんな事になってしまうだろう。 「おっちゃんが君達のパパになりたいんだけど、ダメかな?」  そんな問い掛けに彼女では無くて僕の方がお姉ちゃんを抱っこしながらその耳元に近付いて話した。 「良いよー!」  すると返事は妹ちゃんの方から有って「あたちも!」ってお姉ちゃんからも返事が有った。 「ホラ!」  なので僕は嬉しくなりながらも彼女の事を見て言った。 「うーん、だけどねー」  そんな彼女はまだ悩んでいる様子だった。  しかし、そんなのを子供達は許してくれる筈もなくて楽しくなったけど、母親が悩んでいるのは退屈な様でジタバタとし始めたので、僕はお姉ちゃんを地面に降ろした。  するとお姉ちゃんは妹ちゃんの手を取って「もっと遊ぼ!」と言うと「うん!」妹ちゃんがそう言って僕達の元離れる。  そんな子供達の事を彼女はずっと眺めていた。 「でも、あたしの結婚はどんなに急いでも半年は許されない」  そんな子供達の姿を見ながら彼女が語るけれど、そんなのは僕も理解していた。 「うん。解っている。待つよ」  日本には結婚が法律上許されない期間が存在する。それは当人同士が若い時とそしてもう一つ。 「じゃあ、離婚の準備をしないと…」  女の人には離婚してから半年をしないと再婚が出来ない法律が有る。そして彼女はまだ今は旦那が居て籍は離れて居なかった。  しかしそれは彼女の決断なのだと思って僕はとっても嬉しかった。だって僕がまだ幼いと言える時代からずっと好きな女の子が僕と結婚してくれると言っているのだ。ずっと夢に想っていた。こんな素敵な笑顔の持ち主と結婚する事を。そしてそれが一度は完全に不可能とまで思える程に二人は離れてしまったのにこうして再会して、今はこうして二人は想い合っている。  だから僕は座って居たのにテーブルに手を付くとそのまんまジャンプをして立ち上がると派手にガッツポーズをして喜んだ。もちろんその時に「ヨッシャー」と雄たけびまで上げているので近くに居た人からは不審者にも思われたろう。でも、ホントーにそのくらいに僕は嬉しかったのだ。 「そんなに嬉しい?」  若干呆れ気味の彼女が僕の事を見ながら聞いていた。その瞳はちょっと冷たくも見える。 「人生でこんなにも嬉しい日なんて他に無いよ」 「そうなんだ。だったらあたしも同じくらいに嬉しいな」  そんな風に彼女は冷静を装って喜んでいたみたいだった。  しかしそれでも彼女はまだ落ち着いた一面を残していた。 「それじゃあ、君もちゃんと離婚しなよ」  それが僕達の最後に残った障害だった。  僕も彼女と会えなかった間に結婚をしていて、ちゃんと妻が居る。だから僕と彼女はダブル不倫のカップルと言う事だ。でも、そんな事はもう問題では無い。  彼女だって随分と旦那とは別居をしているし、僕の妻にはあちらにも浮気相手が居る。だから僕達にはもう障害と言う物は無いのだ。 「愛してるから」  僕はそんな言葉で彼女の事を見る。すると彼女も一度深く頷くと隣に寄り添ってくれてそんな僕達の事を見付けた様子で子供達が近付いて、今度は僕のところに妹ちゃんが、彼女の所にお姉ちゃんが引っ付いた。これからはこんな四人家族になる事を皆が願っている。 おわり
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