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38スペシャル
「ここを38スペシャルで撃たれたんだ」
そう言ってボブじいさんはいつもの話を始めた。
「ここんところだ」
ジーンズの腿の辺りをさすりながら、ボブじいさんはそう言う。
確かに、布地の上からでも少しその部分が窪んでいるのが分かる。
若い頃に銀行で居合わせたギャングともみ合う中で腿を撃たれて以来、杖をついて歩いている。それがボブじいさんの自慢のエピソードだった。
もう十回は聴いているがぼくは、その都度初めて聞いた様に驚いてみせ、相槌をうち、興味を持っているようにその話を聴いた。
話し終えるとボブじいさんは毎回、ぼくにビールを奢ってくれて、機嫌の良さそうな顔で足を引きずりながら店を出ていく。カウンターの中でジョナ(こう呼ぶと本人は怒る)は毎度のこのやり取りを笑いをこらえながら見ていて、ぼくにビールのグラスを差し出しながら、「悪い奴だな」と言う。
「誰だって聞いてもらいたい話があるんだ」
ぼくはそう言い、ジョナは「そうだな」と頷いて僕の前から離れて行く。
実際にはボブじいさんは、酔った奥さんに押し込み強盗と間違われて撃たれたという事も知っていた。誰に撃たれたって38スペシャルで受けた傷は痛いだろうし歩けなくなるだろう。その傷痕に乗せておく記憶ぐらいは良いものにしてあげても誰も困らない。ここいら辺ではよくある話だった。
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