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この町で起きた事件ではないから、保安官の彼からすれば報告書を受け取るぐらいしか出来る事は無かった。流しの犯行だったという。
「若い子がいなくなるのは寂しいものだね」
ぼくがそう言うと大きく頷き、
「テキサス辺りじゃ、若者の方が多い町ってのもあるそうだ。少しこっちに回してもらいたいよ」
と肩を竦めた。「俺の後任も捜さにゃならん」
「辞めるつもりなのかい?」
パックは少し意外なくらいにしょぼくれた顔になった。
「俺ももう歳だ。真剣にリタイアを考えてる。もうこんなもんをぶら下げてるのは飽きたよ」
腰のホルスターを少し持ち上げてそう言い、大きく手を上げると、SUVに戻って行った。いつも綺麗に磨かれて、この町には似合わないような車だった。
パックのフォードを暫く見送ってから、シボレーに乗り込み、少しぼんやりとしていた。
ここに住むのは嫌いではないけれど、それは自分が異端の者だからかもしれなかった。
キャスが言っていたように、ぼくはこの町で起きてきた事を知らない。この片田舎の町で今まで起きた事を。つらい事件を。
車を出した。今日はこの後、マットの店のネオン管を修理する約束だった。砂埃が舞って、一瞬前が見えなくなった。
この町は風が不意に強くなる事があった。珍しく雨になるかもしれない。
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