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コヨーテ・ドライブ
コヨーテ・ドライブが始まった。
国内では禁止になった州や町もあるけれど、この辺りではまだこの風習のようなものが続いている。
実際コヨーテは全米中で増えていて、人が住む地域にもやってきて家畜を襲ったり、時には住民も被害に遭う。
動物愛護的な観点からは良くないことだと皆言うが、住んでいる人間からすると、コヨーテの適応能力は人々の生存を脅かす問題なのだった。
猟銃を手にした屈強なハンター達が、パックマイヤー保安官補の手引きで、出没が確認されている辺りに散会していった。
「お前も狩られちまうな」
様子を眺めていたぼくに、トラック・ドライバーのホルヘが声をかけた。メキシコ辺りではコヨーテには「よそ者」という意味がある。
「非番なのかい」
ぼくが訊くと、「今朝ツーソンから戻ったんだ。今晩からまた仕事さ」とコロナビールを飲みながらホルヘは答えた。
「大変なんだね」
「そうさ。お前みたいに、呑気に昼からボブ爺さんの相手をしてる訳にゃいかないんだ。家族を喰わせないといけないからな」
耳が痛い話ではあった。ぼくはこの町で仕事という仕事をしていない。時折、住人達の電化製品の修理をしたり、小さな商店のネットワークの不具合の様子を見て駄賃のような料金を貰って暮らしていた。
「せいぜいライフルスラッグに当たらないようにするよ」
肩を竦めるぼくに、ホルヘは「こいつは傑作だ」と笑った。メキシコ系のこういう明るい所がぼくは嫌いではなかった。
暫くすると、ライフルの射撃音が聞こえ始めた。そんなにいるものだろうか、とぼくは思った。
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