パリ

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パリ

 アメリカにもパリという町があると知ったのは、まだ日本に居た頃にドイツ人監督が撮った映画『パリ、テキサス』を見たからだった。正確にはアメリカでは「パリス」となる。  若い頃に見たので、なんとなく憧れのようなものを持った。あの渇いた、田舎町がパリだという矛盾のようなものが面白かった。  アメリカは移民の国だから、やって来て集落を作った時、あちこちに自分の母国の地名や名所、偉人の名前をつけていった。  ボストンがそうだし、ニューヨークやニュージャージーは「新しい」という言葉を頭につけているだけで割合単純だ。  もっとも、多くの地名は元々の先住民であるインディアンの言葉から取られている。アメリカ人は土地を奪ってインディアンを居留区に押し込んだ。  だからよそ者と言う意味では、ぼくも彼らも歴史があるかないかの違いだ。  スタンの店でネオン管を修理している時、彼に訊いてみた事があった。彼は父親の代からこの店を任されていて、恐らく他の州では暮らした事は無い。 「アメリカにもパリがあるって知ってたかい?」  スタンはぼくのドライバーやらの手さばきを眺めながら答えた。 「アメリカには何だってあるのさ。パリもロンドンも皆あるんだ。みんなここに集まってくるんだからな」 「行った事はあるのかい?」  立ち上がって通電させると、ネオンが元通り、ちかちかと原色のネオンサインを描き始めた。
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