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部屋に戻ると、もう夕食の時間近くになっている。
しばらくテレビを見ながら待っていると、夕食が部屋に運ばれるという連絡が入った。
次々に料理が運ばれてきて、テーブルに豪華なメニューが並べられる。
「わぁ、すごい。美味しそう」
千夏は嬉しそうに、瓶のビールを栓抜きを使って開けた。
テーブルに並んだ二つのグラスを手に取ると、ゆっくり注いでいく。
僕たちは乾杯してグラスを飲み干した。
「あー、幸せ。温泉に浸かって、美味しいもの食べて」
千夏は全身の力が抜けたように椅子に寄りかかった。
彼女はさっき入った温泉の話をしながら料理を食べ始めた。女湯の方は薬湯で何種類かに分かれており、一通り全部入れたようだ。
千夏は露天風呂の話をしながら
「お風呂の中で元彼のお母さんに会わなくて良かった」
と言う。
「春頃に挨拶行った時はあんな感じじゃなかったんでしょ?」
僕がそう聞くと、千夏はうなずいた。
「うん。でもお母さんも私たち見て、いい気持ちしなかったのかもね。雅のこと彼氏だと思ってたし。うちの息子と別れてすぐに男作ったの?みたいな」
「それにしても悪意感じたけど。元彼とはもう終わってることなのに、わざわざこっちに声掛けて来てさ」
「まぁね。でも、いちいち言われたことに振り回されるの、馬鹿らしくなってきた。振り回されてる時間が勿体ないというか」
千夏はそう言ってビールを飲んだ。
夕食は海鮮が中心で、どれも美味しい。
お刺身の盛り合わせも新鮮で食べ応えのある切り身ばかりだった。
小さな火が灯っている鍋の料理を食べていると、湯冷めした頬が火照るように温かくなった。
「美味しい。ビールもう一本開けようか」
千夏はそう言いながら、栓抜きを手に取った。
向き合う彼女を見ていると、さっき嫌な思いをしたはずなのに、どこかすっきりと開放されたような顔をして料理を食べている。
千夏が気にしていないなら、僕は自分もさっきのことは忘れることにして、注いでもらったビールを飲んだ。
食べながら、話しながらで僕たちは時間を掛けて料理の皿を空にしていく。
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