雅 ④

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部屋に戻ると、もう夕食の時間近くになっている。 しばらくテレビを見ながら待っていると、夕食が部屋に運ばれるという連絡が入った。 次々に料理が運ばれてきて、テーブルに豪華なメニューが並べられる。 「わぁ、すごい。美味しそう」 千夏は嬉しそうに、瓶のビールを栓抜きを使って開けた。 テーブルに並んだ二つのグラスを手に取ると、ゆっくり注いでいく。 僕たちは乾杯してグラスを飲み干した。 「あー、幸せ。温泉に浸かって、美味しいもの食べて」 千夏は全身の力が抜けたように椅子に寄りかかった。 彼女はさっき入った温泉の話をしながら料理を食べ始めた。女湯の方は薬湯で何種類かに分かれており、一通り全部入れたようだ。 千夏は露天風呂の話をしながら 「お風呂の中で元彼のお母さんに会わなくて良かった」 と言う。 「春頃に挨拶行った時はあんな感じじゃなかったんでしょ?」 僕がそう聞くと、千夏はうなずいた。 「うん。でもお母さんも私たち見て、いい気持ちしなかったのかもね。雅のこと彼氏だと思ってたし。うちの息子と別れてすぐに男作ったの?みたいな」 「それにしても悪意感じたけど。元彼とはもう終わってることなのに、わざわざこっちに声掛けて来てさ」 「まぁね。でも、いちいち言われたことに振り回されるの、馬鹿らしくなってきた。振り回されてる時間が勿体ないというか」 千夏はそう言ってビールを飲んだ。 夕食は海鮮が中心で、どれも美味しい。 お刺身の盛り合わせも新鮮で食べ応えのある切り身ばかりだった。 小さな火が灯っている鍋の料理を食べていると、湯冷めした頬が火照るように温かくなった。 「美味しい。ビールもう一本開けようか」 千夏はそう言いながら、栓抜きを手に取った。 向き合う彼女を見ていると、さっき嫌な思いをしたはずなのに、どこかすっきりと開放されたような顔をして料理を食べている。 千夏が気にしていないなら、僕は自分もさっきのことは忘れることにして、注いでもらったビールを飲んだ。 食べながら、話しながらで僕たちは時間を掛けて料理の皿を空にしていく。
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