千夏 ⑤

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千夏 ⑤

朝、仕事に行くために自転車を玄関から出していた私は、すぐに忘れものを思い出した。 自転車を家の前に停め、家の中に引き返す。 台所に置いてある紙袋に入った箱入りのお菓子を持って、外に出た。 温泉旅行に行くために休みをもらったので、職場に配るお土産を持って仕事に行く。 萌ちゃんにはそれとは別に、美容系のお土産も買ってある。 紙袋を自転車のかごに入れて、私はペダルを踏み込んだ。 今日は朝からすっきり晴れて気持ちがいい。 日中から気温が上がって、昨日より暑くなるようだ。 この時間からすでに少し強くなりかけている陽射しが眩しかった。 職場に着くと萌ちゃんはまだ来ていなくて、私が一番最初に店に入った。 静かで誰もいない店内を眺める。 休み明けの緩んだ意識の中に、またいつもの日常が始まるという感覚が戻ってきた。 温泉、楽しかったな。 さて今日も一日頑張るか。 私はレジの準備をして、店内の掃除に取り掛かった。 掃除をしながら萌ちゃんを待っていると、朝から来ないはずの店長が店に入ってきた。 「あれ?おはようございます。店長、昼から出勤じゃないんですか?」 私がそう聞くと、店長は萌ちゃんの体調が良くないので、代わりに朝から自分が出勤したと言う。 「今日病院行くって言ってた。次の出勤がいつになるかまだ分からないね」 店長が電話で聞いたという萌ちゃんの様子をそう話した。 「心配ですね・・。また私からも連絡してみます。あ、お休みありがとうございました。お土産バックヤードにあるので食べて下さい」 私はそう言って掃除の片付けをした。 萌ちゃん、大丈夫かな。 後で連絡しようと思いながら、開店準備をして仕事に取り掛かった。 お昼の一時には休憩に入れたので、萌ちゃんに連絡してみる。 『大丈夫?体調どう?』 もしかすると熱があったりして寝込んでいるかもしれない。 私はそう思ってメッセージだけ送った。 すると割とすぐに返信があった。 『ごめんね、仕事休んで。また行けるようになったら連絡すると思う』 夏風邪でも引いたのだろうか。 『お店のことは大丈夫なので、ゆっくり休んで。お大事にね』 私はそう返信すると、休憩から仕事に戻った。 温泉から帰ってきてから三日後、雅と一緒に猫を迎えに行った。 仕事が終わった後に待ち合わせて、バスに乗って二人で向かう。 「甥っ子がさ、猫と離れるの寂しいがってるみたい。時々写真送ったり、様子伝えたりしてもいいかな?」 バスに揺られながら、雅が言う。 「うん、もちろん。雅はいつもうちに来るんだから、そうしてあげると向こうも安心だね」 そんな話をしながら私たちはバスを降りて、猫を迎えに行くマンションまで歩いて行った。
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