三毛猫

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二人はわたしを挟む形で縁側に座ると、同じ飲み物を飲みながら言葉を交わし始めた。 わたしは鉢植えのそばに座ったまま、そんな二人の様子を眺める。 千夏は縁側にあるサンダルを履くと、向日葵に近付いて行った。 うつむく花の真ん中を覗き込むと、そこから一つ一つ小さな種を取り出し始める。 彼女の手の中に、縞柄の種が積み上げられていく。 「あれ?向日葵の種ってこんなに小さかったっけ。子供の頃はもっと大きかった気がするけど」 千夏は手のひらを見つめて言う。 「子供の頃より自分の手が大きくなったから、そう見えるだけなんじゃない?」 雅が言うと、千夏はふふっと笑って「そうかもね」と言った。 「萌ちゃんにあげようかな。ハムスター飼ってるから」 千夏が種を採る手を止めずに言う。 「萌さん、仕事いつまで?」 雅が聞いた。 「九月いっぱいだって。秋から冬にかけて、実家がある地元に帰るみたい。安定期入ってから出産までに籍入れて、家も探さなくちゃいけないし。忙しそうだよ」 「そっか」 二人の会話を聞いていると、萌ちゃんという人が遠くに行ってしまうようだ。 うつむく向日葵と、千夏が重なって見える。 どちらも元気が無く、うなだれてしょんぼりして見えた。 「寂しいな。みんな私の知らない場所に行っちゃう気がする。雅だっていつか誰かと結婚とかしたら、ここにも来なくなるでしょ」 千夏がしんみりとした口調で言った。 えっ、そうなの? 雅、いつかは来なくなっちゃうの? わたしは雅の方を見た。 「どうだろう。僕は結婚とかするのかなぁ ・・」 雅はそう言って、缶に口を付ける。 しばらく口をつぐみ、何か物思いにふけるような顔をした。 千夏は何も言わず、相変わらず種を取り続けている。 「結婚=幸せ、だとは思えないんだよね。好きな人とずっと一緒にいられたら素敵なことだとは思うけど、自分の中でそれが結婚っていう形と繋がらないのかも」 雅は続けてそんなふうに言った。 結婚って、なに? わたしはそう思ったが、考えても分からない。 話し続ける二人の間で、わたしはまた目を閉じた。 雅はここに住んでいるわけではない。 今日みたいにこうして庭からやってきて、しばらくすると何処かに帰っていく。 千夏と雅が話す様子を眺めていたら、前の家でママとパパが交わしていた、静かで穏やかな話し声を思い出した。 時々笑い声が混じる、温かな空気。 雅、ずっとここにいればいいのに。 そしたら前にわたしが暮らした家が、また自分の元に戻ってくるような気がした。 わたしが大好きな、温かな家。 ここは庭があるから、千夏はレモングラスをいっぱい植えてくれるかもしれない。 大好きな香りで満ちる庭。 いいなぁ。 そんな空想をしながら、わたしは思わず大きく深呼吸する。 もし、小さな子供がこの家に来たら、晴れた日は庭で一緒に遊んであげてもいいよ。 次は女の子がいいな。 なにして遊ぼうか。 わたしの胸の中に、ふわふわと淡い期待が湧き上がってくる。 やがて陽が落ち始めると、どこかでヒグラシの鳴く声が聞こえてきた。 カナカナカナカナ・・・ ゆっくりと空に吸い込まれていくような声で、何匹もが鳴き続けている。 辺りは薄暗くなってゆき、真夏の暑さが気配を消していく。 千夏の静かな声と、雅の低くて穏やかな声を聞きながら、わたしはゆっくり目を開けた。 この庭から、夏が去ろうとしている。 真ん中がぽっかり抜け落ちた向日葵から、僅かにに残った花びらが地面に落ちていくのが見えた。
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