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次の日、仕事から帰る途中に義兄から連絡があった。
土曜日に、甥っ子が千夏の家に遊びに行きたいと言っているらしい。
「千夏に聞いてみないと分からないけど、たぶん夕方から夜になるかな。それでも大丈夫?」
僕がそう言うと、義兄は自分が送り迎えするから大丈夫だと言った。
土曜日の夕方五時半頃。
一旦、僕の家に甥っ子が義兄の車に乗ってやってきた。
僕は小さな手を繋いで、千夏の家に行く。
「あれ?みーくんの家から近い。いいなぁ、いつでも猫に会えるね」
甥っ子は千夏の家の前に来ると、僕の家を振り返りながら言った。
「うん。しょっちゅう来てるけど、猫はずっと元気でいるよ」
僕はいつもと違って、玄関から千夏の家に入る。
猫は縁側にあるレモングラスの鉢植えの近くに座っていた。
「あっ、いたいた。久しぶりー、元気だったか?」
甥っ子は嬉しそうに猫に近付くと、抱いて頭を撫でている。
夕食を三人で食べようという話になり、僕は千夏を手伝うために台所に向かう。
「クリームパスタとかでよかったかな」
千夏は冷蔵庫から材料を出す。
千夏は野菜ときのこが入ったコンソメスープを作り、僕はサラダを作る。
パスタを茹で終わるとすぐに夕食が出来上がった。
「さ、手洗って」
千夏はそう言いながら甥っ子を洗面所に連れて行く。
夕方六時半頃、三人で揃って食卓を囲んだ。
甥っ子はテーブルの夕食を見て目を輝かせ、おばあちゃんが作るメニューよりこっちが好きだと言った。
「魚とか煮物が多いんだ。魚は骨が多くて食べにくいし」
年配の人が作る食事は、甥っ子の好みには合わないのかもしれない。
「食べたいもの、おばあちゃんにリクエストしてみたら?作ってくれるかもしれないよ」
千夏がそう言うと、甥っ子は早速このパスタをお願いしてみると言っていた。
いつもより賑やかな食事を終えて、甥っ子はまたしばらく猫と過ごし、八時前には迎えの車に乗って帰って行った。
「ありがとう、千夏。仕事の日だったのに、夕食まで作ってもらって」
静かな空間に戻った部屋で僕がそう言うと、千夏は笑った。
「別にいいよ。またこうやって三人でご飯食べよう。一人暮らしだと寂しい時あるもん。今日はなんか家の中が温かくて、私も嬉しい」
千夏はそう言うと、さっきまで三人で囲んでいたテーブルを眺める。
賑やかだった後の静けさは、確かに少し寂しい気もした。
窓から見える外は真っ暗になっている。
「じゃあ僕もそろそろ帰らないと。おやすみ」
「おやすみ」
僕は千夏の家を出て、自分の家に向かう。
明日店長に、彼が休みの間は店を引き受けると返事をしようと思う。
忙しくなるだろうな。
店が混む時期には休みをあまりとらず、一日の仕事時間も長い店長を思い出す。
千夏の家にも、しばらく行けないかもしれないな。
僕は今後の予定がはっきり決まったら、千夏にも話そうと思いながら家の中に入った。
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