雅 ⑥

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十二月に入り、朝の冷え込みも日に日に厳しくなってきた。 僕はネックウォーマーや手袋でしっかり防寒して、バスに乗って仕事に向かう。 この時季は暗くなるのも早いので、帰りも同じくらい寒くなるだろう。 店長が五日程前に、こちらに帰ってきた。 いつもより髭の目立つ顔で店に現れ、すぐ僕のところに来るとお土産だといって大きな紙袋をくれた。 「ありがとう、雅くん。また改めてお礼させて欲しい」 店長はそう言って頭を下げる。 「いえ、僕はなにも。やっぱりこの店には店長がいないと駄目です。お帰りなさい」 僕がそう言うと彼は笑って、少し体を休めたいので、あと一日休んだら仕事に来ると言った。 こうして僕の二ヶ月間に及ぶ店長代理の期間は終了した。 今月に入ってからはずっと、以前のように夕方には仕事を終えて、家に帰る。 僕は久しぶりに千夏の家に行こうと思って、スマホを取り出すとメッセージを入れた。 『店長代理、先月で終わったよ。めちゃくちゃ忙しかった。久しぶりに一緒にご飯食べない?』 送信して五分も経たないうちに、返信を知らせる音が鳴る。 『お疲れさま。二ヶ月大変だったね。忙しくてあっという間だったんじゃない? ご飯の件、了解。夜、寒くなってきたから鍋とかどうかな。明日だったら材料買っておけそうだけど』 鍋か。いいな。 最後に千夏と一緒に食べたのは秋刀魚だったから、季節がそれだけ移り変わったのを感じる。 僕は明日の夕方から夜に行く旨を連絡して、帰りのバスに乗り込んだ。 鍋を食べるのは久しぶりだ。 バスの窓から寒そうな外を眺めながら、温かな湯気の立ち込める土鍋を想像する。 母と二人暮らしだと、家で鍋を食べることは滅多にない。 お互い生活リズムが違うので食事の時間もバラバラだ。 そういえば家に開けてない日本酒があった気がするな。小さな瓶だから、二人で飲むのにちょうど良いだろう。 少し甘口の、フルーティーな日本酒。 千夏は気に入るだろうか。 僕は冷える帰り道を、急ぎ足で歩いて家へと向かった。
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