175人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
次の日、仕事を終えると僕は一旦家に戻ってから千夏の家に向かった。
つい癖で庭から入りそうになり、思い直して玄関から入る。
寒くなってきたから縁側も閉め切っているだろう。
「千夏ー、来たよ」
玄関でそう声を掛けると、台所から返事が聞こえた。
台所に入るとストーブがあり、ふんわりと暖かな空気が頬を撫でた。
シンクの前にいる千夏に声を掛ける。
「久しぶり」
「うん。お疲れ、雅」
窓に掛かったカーテンは前に見た時と違い、暖色系になっていた。冬向けの分厚いものに変えたようだ。
部屋全体が暖かそうな雰囲気になっている。
テーブルにはガスコンロと土鍋が用意してあり、切り分けた野菜や肉が並べられていた。
鍋の中には温まったスープが入っていて、いい匂いが台所に立ち込めている。
「今日は雅を労う日だね」
千夏はそう言い、僕から日本酒を受け取ると食器棚の中にあるお猪口を探し始めた。
猫はどこにいるんだろう。
見渡すと、隅に置かれた椅子の上に座っていた。
部屋は暖かくても床は冷たくて寒いのかもしれない。
猫は僕の方をじっと見て、すぐに目を逸らすと部屋の入口辺りを眺めていた。
鍋の具材は、僕の好きな鶏つみれが入った塩出汁の鍋だった。
二人で取り分けつつ、二ヶ月間会っていなかった間にあった出来事なんかを話しながら食べた。
千夏の働く店には、新しく採用された女の子が入ってきたようだ。
未経験の子なので、千夏がしばらくサポートしながら仕事をするらしい。
僕もこの二ヶ月、店長の代わりにスタッフのサポートにも入ったりしていたので、お互い大変だったという話をした。
鍋の具材がほぼなくなる頃には、二人ともお腹いっぱいになっていた。
ストーブで部屋が暖かいせいか窓が曇っており、外の寒さが際立っている。
「夜になるとますます冷えるね。後でこたつ出そうかな。隣のテレビがある部屋に」
千夏が窓を見てそう言うので、僕も一緒に手伝うことにした。
隣の部屋に行き、カーテンをぴったり閉めて隙間風が入らないようにする。
押入れに入っていたこたつ布団やラグを出してきて、二人で設置した。
部屋の真ん中に、ふわふわでこんもりとしたこたつの山が出来上がる。
中の電源を入れてスイッチのボタンを押すと、オレンジ色の暖かそうな色が灯っていた。
「猫ちゃん、おいで」
千夏がそう呼ぶと、猫は早速こたつ布団の中に入っていった。
僕と千夏も向かい合ってこたつに入り、足元からじわじわと少しずつ温まっていく。
最初のコメントを投稿しよう!