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引越しをする時に捨てる気になれなかったものは、大きめの段ボールひと箱に丁度収まりきるくらいの量で、それは、友人たちと撮った写真を並べたアルバムだったり、その時々の予定が書き込まれたスケジュール帳だったり、あるいはお気に入りだったアクセサリーを入れた宝石箱だったり、大切なものだけを選別してしまっているアルミ製の「大切な物入れ」だったりした。
夏海が珍しくその段ボール箱を取り出して中の整理をしようと思い立ったのは、前述のように、年末だから、という訳ではなかった。でも、ただの気まぐれでもなかった。
「夏海ももうすぐ二十八かぁ」と感慨深げに呟いた武井さんの顔を思い出す。
三歳年上の武井さんとは仕事で知り合って付き合い始めてもうすぐ半年になる。温厚で物静かな彼は、歳の割に落ち着きのない夏海を、「そういうところもかわいいよ」と包み込んでくれる貴重な人だった。情熱のようなものは感じなかったけれど、年齢やバックグラウンドも含めて「丁度いい」と思える相手にこの歳で巡り合えたのはラッキーだった、と夏海は思っている。
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