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第八話 昇級試験と〇〇 前編
「どれくらい集まった~?」
一通り取り尽くしたであろう咲夜、が影兎に近づいていきながら本数を聞いた。
「僕は20本だね」
これは、かなりの大収穫だ。普通ならば、こんなにも大漁に採取されることは滅多にない。
「おおー!私は25本!」
また、咲夜も負けじと沢山キィヒランデを見つけていた。
それからギルドへ向かって帰りだした。ギルドに着くなり薬草の換金をし始めた。
「薬草採取の依頼、かんりょーしましたー」
咲夜はギルドカウンターに、影兎は咲夜の陰にいる。
「この量は.......いったい.......」
職員さんは、薬草の多さに戸惑いながらも訳を聞いた。
「まあ、いろいろあってね」
咲夜は、職員さんの気も知らないで嬉しそうに答えた。
「合計で.......45本?!ですね.......少々お待ちください」
職員さんは慌てた様子で、席を外して行った。
どうしたんだろう?かなりの時間かけて採ったんだけど.......
影兎は内心、不安しかない。これからどうなるかも知らずに
少し待っていると、さっきの職員さんが戻ってきた。後ろにもう1人、ガタイの良いおっさんがいた。顔は少し厳つくて、髪は金髪のトゲトゲだ。瞳は黄色で、口ひげを生やしていた。身長は、扉を屈まないと通れないほど高かった。
お、おぉ.......厳つ!そして高っ!
影兎は思わず声に出しそうになったが、心の内にとどめることが出来た。
「お前さんらか?『キィヒランデ』を大量に持ち込んだっていうのは」
え?え?どういうこと?
「はい!」
影兎が戸惑っているうちに咲夜が勢いよく返事した。それを聞いて
「ふーむ、奥に来てくれねぇか」
なぜか奥の部屋に2人は案内された。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はこのギルドを管理している!ギルド長のゴルドウス・ウォーディだ。お前さん達は?」
かなりの声量だ。出された飲み物が振動で揺れているのが分かる。
「私は、咲夜・人影で」
「あ、影兎・如月です」
お!えっちゃん、ちゃんと反対にして言ったね!そうそう、異世界だからこうしないとね
「サクヤとエイトだな、早速本題に入ろうと思う――」
ギルド町の話が長ったらしかったので、簡単に訳すと
どうやらここ最近、薬草の納品数が減っているらしく出店にも余り出回っていないとかで、苦労していたそうだ。依頼の張り紙を出しても、受けてくれる人はいるも規定の数見つからないらしく、無限ループになっていた。そんな中咲夜達が依頼の規定よりも遥に多い、45本という数採取していた。のでどうして、どこでそんなにも採れたのかを聞きたかったそうだ。
「あーなるほど、私らが取りに行ったのは――」
◆ ◆ ◆
とまあ、いろいろあってランクがFからDになりました。本当はランクCにしても良かったらしいが、ランクCからは昇格試験があるためランクDまでの飛び級となった。だが運の良いことに、昇格試験を受けさせてくれるらしいので、2人とも受けることになった。
「ひろーい!」
ここは冒険者ギルドの裏側、魔法の練習や模擬戦が出来るように広く造られている。大きさは半径25メートルの円形状の中に砂場のような、小さい運動場のような感じだ。周りには会場を上から見下ろせる、応援席みたいなのがあった。
「ここで試験を受けるのか.......」(ぼそっ)
思わず声に出してしまったが、誰にも気付かれていないようだった。
そしていよいよ、咲夜と影兎の昇格試験が始まる.......
『(ではどうやって咲夜は、無数の『氷刃』から生きていられたのか、それを説明しよう.......1人だとやりづらいな、では影兎をお呼びしよう)
え?なんで僕なの?
(いいから、突っ込んでよ?)
で、どうやって咲夜はあれから抜け出したの?
(咲夜はね風を極めて、『嵐』にしてるんだよね。そうするとその魔法を自然に覚えられるんだ。)
うん、僕の『氷』と同じだね
(そうだね、そしてその魔法が『疾風風紀』と言う魔法なんだ。この魔法の効果は、10秒間風の力を使って、秒速10メートルの早さで動くことが出来る。そして『氷刃』の効果範囲は、一つ一つの氷塊が直径約10メートルだった。そのため、立った1秒で魔法の効果範囲から離れることが出来たのだ。)
す、凄い!完全に魔法を使いこなしてる!』
「なるほど。ですが既にもう10秒の時間は過ぎています。再び使うには2分のクールタイムが必要なはずです!さてどうするのですか?」
そう言われ、咲夜は不意を突かれたような顔をした。まさか、クールタイムも持続時間があるとは思ってもみなかったようだ。
「ふっ、まさかこれに制限時間があるとは思ってもいなかったわ」
強がりなのか負ける気は無いのか、思ったことをそのまま言った。
「おい!コーリス、あんなもん使ったらアブねぇーだろうが!」
ギルド長のゴルドウスさんは、『氷刃』を使ったらコーリスさんに怒鳴った。
「ほほ、無事だったから良かろう?」
コーリスさんは、怒鳴るゴルドウスさんに謝りもせず結果論を述べた。
「そろそろ決着をつけるとしましょうか」
そうコーリスさんがいうと、杖を構えスキルを発動させた。
発動中スキル ―高速詠唱 並列詠唱 MP上昇―
その後並列詠唱で2つの魔法を高速詠唱し始めた。
「B級魔法、嵐、氷雪、敵を囲め。『永久凍土』」
「風の刃、無数の波、切り裂けよ。『風刃』」
「――なっ、コーリス!止めろぉー!それは.......――」
ゴルドウスさんから魔法をやめろと言われるが、その言葉はコーリスさんの耳には届かない――ゴルドウスさんは仕方なく影兎を闘技場の出入口の所まで一緒に走りながら詠唱を始めた。
「扉の幻影、果ての奥地、我々を助けよ。『瞬間移動』 逃げるぞ!」
「え!さく――」
瞬間、影兎とゴルドウスさんはこの場から消えた。だがコーリスさんと咲夜はそれに気付いてすらいない。そして、コーリスさんの『永久凍土』が咲夜の周囲に発生した。氷の壁が咲夜の逃げ道を塞いだのだ。壁の高さは、闘技場の観客席が中から見えないほど高い。そして氷の壁から物凄い冷気が咲夜に襲いかかった。だが
「寒っ――『竜巻』」
咄嗟に咲夜が放った『竜巻』により、冷気は咲夜の元には来なくなった。そして『竜巻』は消えること無く咲夜の周囲を守るようにして4つ転々としている。
「.......まさか、C級魔法すら無詠唱とは.......気が置けぬな」
壁の外側に居るはずのコーリスさんの声がどこからともなく聞こえた。聞こえた方に目を向けると、氷の壁の上にコーリスさんが立っていた。そして、後に詠唱した『風刃』を咲夜に向かって放った。しかし咲夜を守っていた『竜巻』がそれを阻み、咲夜の元へ攻撃が当たることは無かった。咲夜は『火炎』を使い、氷の壁を溶かそうと試みるも炎が壁に到達する前に冷気によって消される。
「あぁーもう!あれを使う!」
そう咲夜が言うと、詠唱.......この場合、呪文を唱えだした。両手を頭の上に出し、何かを固めるようにして魔力を集め出した。
「敵を焼き尽くす炎よ、敵を囲いし爆風よ、我がフィールドとなれ!『爆風空間』」
「なんだ.......この魔法陣は?!」
空には巨大な魔法陣が3つ展開されていた。それぞれ緋、翠、蒼
「この、壁を!溶かせぇぇぇ!!」
すると氷の壁の外側に溶岩があるのかというぐらいの熱が発生した。それがさらに強風によって壁に集中攻撃される。
「なっ?!『永久凍土』が.......溶かされておる?!」
コーリスさんは、まさか『永久凍土』が溶かされると思ってもみなく、次第に壁はみるみる小さくなっていきコーリスさんは足場を無くした。体勢を崩したコーリスさんは、揺れの勢いで地面に垂直落下していった。だが途中で大気中の魔力を操作して、頭から落ちること無く綺麗に降り立った。
「.......あまり、使いたくなかったんだよね」
咲夜は頭をかきながら何も残っていない、まるで来たときのような綺麗さの、闘技場を見つめながらそう言った。
「まさか、これほどとは.......負けを認めざる事にはならないな」
そう言うとコーリスさんは、両手を挙げて降伏した。するとどこかで見ていたのか、ギルド長と影兎が戻ってきた。そしてギルド長はあんな魔法を使った、コーリスさんを叱りに行った。その後咲夜達は無事冒険者ランクCになった。
【(西)住宅街街道】にて
「――ふぅー。疲れたねー、えっちゃん?」
「疲れたのは咲夜でしょ?」
影兎はさっきまで戦っていた咲夜の方を心配して、顔を60度曲げて苦笑いした。
「あ!」
突然咲夜が大声を上げた。思わず影兎は体がビクッとした。
「え、なに?」
「そういえばさ、私らの宿.......探してないよね?」
もう日が暮れ始めている。10分も経たない内に夜になるだろう。でも影兎達はまだ自分たちの宿がないと言う。どうするつもりだ?
「.......」
2人とも黙って思考している。こうしている内にも時間が過ぎていく、そして――
「.......すっかり、暗くなっちゃったね」
2人が思考している間に辺りは真っ暗になってしまった。そして街灯がつき始めた。街灯の中には10cmくらいの光の魔石がはめてあり、辺りが暗くなると光るように付与がされている。
「そうだね.......野宿する?」
影兎は、野宿だけはしたくないと思いながらも一応聞いてみた。
「いや、野宿は.......?!」
咲夜が影兎の問に答えようとしたとき、影兎の後ろに光る物が見えた。咄嗟に咲夜は『水球』を使った。
バシャーン!
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