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第八話 昇級試験と〇〇 後編
『水球』が何かに当たり、破裂した。すると暗闇に動く1つの影が咲夜達に近づいてきた。
「.......ッ!」
そこに居たのは人族ではなかった。黒い角、とがった牙、気圧されるような溢れ出る膨大な力.......魔族だ。
「どうして.......ここに魔族がいるの?」
咲夜は恐る恐るその魔族に聞いてみた。
『グハハハハ!お前らが知る必要なんざねぇんだよ!』
.......ごめん。なんて言ってるのか分かんない
影兎は内心そんなことを思いつつも、右足を一歩後ろに下げて身構えた。
『おっと、そういえばクロミネス語は人族には分からないんだったな。グハハハハ!』
そう言うとその魔族は言語を変えて話し出した。
「ん、ん゛。これで俺の言葉が分かるだろう」
魔族は拳を口に当てて喉を鳴らした。
あ、ほんとだ
「.......流石は異世界ね」
咲夜が呟くと、聞こえていたのか魔族が反応してきた。
「ほぉぅ。召喚者か.......なら、分が悪いな。悪いが今日の所は帰らせて貰う」
咲夜が召喚者だと知るや否や、自分には不利だと良い、瞬く間に暗闇の中に消えていった。
「なんだったんだ.......というか魔族?!」
影兎はいろいろと状況の理解が出来ていないので混乱している。
「あれは魔族。恐らく200年前の戦争の生き残り.......」
咲夜は推測だが影兎に分かりやすく簡潔に言った。すると空からポツポツと雨が降り出してきた。数分後、豪雨となった。今まで静かにだった辺りが雷雨によって悲しい雰囲気を作り出した。
ザァーー、ゴロゴロゴロ!
咲夜達は雨宿りもしようとせず、道の真ん中にたたずんでいる。そして咲夜は闇の空を見上げたのだった.......―――
◆ ◆ ◆
翌日、咲夜達は薄暗い路地裏で目を覚ました。
「ここ、は.......?」
あ、そういえば昨日、雨が降ってきて宿もないから人目のない路地裏で寝たんだった.......あーあ、服がビチョビチョ.......替えがね.......
ふと咲夜は影兎を見た。まだ寝ている。もちろん影兎の服も雨でビチョビチョだ、地面が濡れている。
砂や砂利がいつの間にか飛んでいたのだろう。手や靴、ズボンが泥だらけになっていた。おまけに、辺りが薄暗いせいか影兎の額が赤っぽくなっていた。
.......私より酷いよね、これ.......
突然咲夜の頭に直接響いてくるような音が鳴った。
「ピロン、ピロン、ピロン」
爆風空間C→爆風空間Bになりました。火炎D→火炎Cになりました。経験値上昇D→経験値上昇Cになりました。
Lv1→Lv5、Hp320→532、魔力155→192、知力96→98になりました。
「.......ィッ?!」
咲夜は突然のレベルアップに頭を押さえて、座り込んでしまった。それでも息を荒々しくしながらも立ち上がり、壁にもたれかかった。
「はぁはぁ.......やっば.......ステー、タス」
咲夜は苦しいながらもステータスを表示した。
職業 勇者 人影昨夜 Lv5 状態 酔い 体温低下 熱
Hp328/532 魔力142/192 素早さ97 筋力27 知力98
属性 火 嵐 水 光
スキル 経験値上昇C 武術D 初歩魔法耐性C 風耐性
鑑定A 身体能力上昇C 異世界オタクSS
魔法 潜伏C 爆風空間B 反射シールド
竜巻D 火炎C 水球D 光明D 疾風風紀
「.......この状況を打破出来るような魔法もスキルもなし、か.......それにしても状態が.......」
酔い、てことはレベルアップ酔いていうことか.......体温低下は、雨に濡れて服がビチョビチョのせいだろうし、熱は.......恐らく濡れたまんまでいたから風邪を引いたんだろうね。このままで居るのはマズいな.......
「ん、.......あれ、咲夜?」
すると影兎がむくりと体を起こした。汚い手では目を擦れないのか、瞼が閉じかけている。
「えっちゃん、大丈夫?『水球』」
咲夜は苦しいながらも『水球』を使い、影兎の手を洗ってあげた。
「.......ありがと.......ふわぁ」
影兎は礼を述べると大きくあくびをした。その後綺麗になった手で目を擦った。
「――ヘッくしゅ!」
突然影兎が体をブルブルさせながらくしゃみをした。
「わっ、大丈夫?」
咲夜は影兎に大丈夫か尋ねた後、路地奥から物音が聞こえたのを聞き逃さなかった。
「しっ!……」
咲夜は素早く反応して影兎に声を出さないようにと、ハンドサインをした。影兎は静かに立ち上がると、咲夜の後ろへ行った。そして
「ボソッ、スキル『隠密』」
『(はいはい、このスキルの解説をするよう。スキル『隠密』とは足音などの『音』を消すことが出来るスキル。あくまでも『音』を遮断するスキルのため、姿形を眩ますことは出来ないのだ。)』
咲夜は影兎が隠密スキルを使ったことに気付き、軽く会釈をした。その後、物音がした路地裏に目をやった。闇の中からヒタヒタと足音のような冷たい音が聞こえてくる。そしてシルエット、輪郭、はっきりとした姿が見えた。
これは……獣人?でもなんで、あっ、首輪が付いてる手にも枷がついてる……ということは『奴隷』
咲夜は猫耳の生えた頭、首回りに付いている首輪、手にも付いている枷を見て、この娘が奴隷だと言うことに結論付けた。
「……あ、う……たぁ、つけて、くあさい」
その娘は必死に咲夜達に何かを訴えるかのようにしてジリジリと近づいてくる。
「……敵意は、なさそうだけど……『助けて』って言ってるように私には聞こえるんだけど」
咲夜の言うとおり僕も『助けて』って言っているように聞こえる。どうしよう、僕になんかがこの娘を助けることが出来るのか?
「――ねえ、何に怯えているの?」
影兎が考えている間にすでに咲夜はその娘と話していた。
「――おおひな、こふぁいの……たつ、けて」
必死に教えてくれようとしているが、詳細がはっきりしない。
「んんー?大きい、怖い、助けて?」
咲夜は何とか分かった単語だけを復唱した。
すると影兎はこっそりとその娘を鑑定した。
職業 ? ??? Lv2 状態 奴隷
Hp60/60 魔力72/70 素早さ12 筋力5 知力10
属性 風
スキル 聴覚拡張A 解析眼B 予知眼B 風の加護
索敵B
魔法 風刃D 応用魔法【風見】
え?名前がない……それに状態が、奴隷?こんな小さな娘が?!咲夜に……いや、もう知ってそうだな
影兎は咲夜の顔色を窺い独断で判断した。すると空から目映い光が降り注いできた。上を見上げると屋根との隙間から太陽光が漏れ出ていた。
「ん?眩し……」
さっきまで薄暗かった路地裏は、餓えから助けられた生物のように明るくなった。
なんで?さっきまであんなに暗かったのに……あ、なるほど。いつの間にか昼になったのね
咲夜は安定の推理力で太陽が真上に行ったことを察した。
「とりあえずさ……へっくしゅ!……」
影兎は肝心なとこで寒さに負けてくしゃみをしてしまった。影兎は羞恥心で顔を赤らめた、だが熱を引いているため客観的な印象では風邪が悪化したようにも捉えることが出来た。
「大丈夫?えっちゃん。顔が赤いし、熱が出て来たようにも見えるけど……」
影兎は平気、平気と手を振りつつ、ズルズルと音を出しながら鼻を擦り――大丈夫だアピールをした。咲夜はそっと影兎のおでこに手を当てた。
「……熱っ?!え、いや全然平気じゃないでしょ!」
影兎のおでこはかなり火照っていた。咲夜はそっと、影兎に触ろうとして――失敗する。影兎の身体がゆっくりと咲夜に近づいて来たのだ。咲夜が混乱する間もなく、影兎は咲夜にもたれかかった。そして足から崩れていき、膝が地面に着いたところで咲夜は察した。
もしや、風邪が悪化した?!
このままじゃマズいと思った咲夜はなんとかしようと頭をフル回転させた――――
『(悪いがここから先は“今”の出来事なんでね。……)』
『(そ、そう言うわけだから、仕佐達の方に戻すね)』
◆ ◆ ◆
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