第十話 帝国と王都

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辺りはまだ暗いのだが、少し目を瞑っていたからだろうか闇に目が慣れており、自分の手も視認することが出来た。前を向くと視界の端に二つの影が見えた。 「あなたを、待ってた……」 小柄の影の方がそう言った。男は意味が分からないとばかりに頭を掻いていた。 「……おまえは、何者だ」 「見ての通り、私は奴隷……」 仕佐からはもちろん見えないが、フード越しに少女の首元に首輪が着いているのが窺える。 「そりゃあ見れば分かるんだよ! 俺が訊きてぇのはお前の正体の方だよ!! 俺はここに来る前に一度、()()から来てんだよ。それなのにイレギュラーがいる……なんなんだお前は?!!」 「そう、()()から来たんだ。なら私の持ってるスキルのことも、()()()から聞いたことくらいはあるんじゃないの?」 「なっ、お前まさか俺の正体を知って?!」 奴隷の少女は微笑むと「さあ? どうでしょうね」と言った。仕佐には彼等が何を話しているの全く分からず、ただここから息を潜めて眺めていることしか出来なかった。 『……権限スキルを使用、対象半径1メートル以内――』 「あら? やっと私の正体を知ろうと思ったの?」 奴隷の少女はクァルツ語を訊いても何も思わず、むしろ嘲笑した。だが仕佐は召喚者のため、この世界に召喚される時に自身の発する言語、他人から聞く言語はスキルがなくとも勝手に翻訳されてしまうようになっている。 ――そう、だから聞き逃したりはしなかった。 (やばい、ここにいたら僕まで権限スキルの対象になってしまう!) と。だが、今動いてしまうと彼等に見つかってしまう可能性もあるため、この場から離れるか一瞬だが迷ってしまった。 男の周りから薄く光が広がっていく。対象範囲は僅か、男を中心として半径1メートルしかないのだが仕佐の判断が遅れたため、権限スキルの対象に入ってしまった。 ――男が突然周囲を見渡し始めた。恐らく、少女以外に誰かがいることを権限スキルで知ってしまったからだろう。仕佐は咄嗟にその場にあった木箱の隣に座り込み隠れた。 「……ちっ、まあいいか。ネズミは後で見つければ良い……それよりもお前だ」 男が少女を見ると、フード越しでも分かるほどになぜか少女は驚いた顔をしていた。男が訊くよりも早く、少女は口を開いた。 「これは驚いたわ……私の予知眼でも『この場所には私たち二人しか来ない』となっていたのに……」 「予知眼……未来予知をする事が出来る秘眼、この国でも所持している者はただ1人しか居ない ……はずなんだが?」 「それが、私。世界秘眼の内の一つ『予知眼』を唯一所持している人物。――そう、この私よ」 少女は可愛らしく、そして自慢するかのように言った。フード越しでも分かるほど美的な笑みを浮かべていた。 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ド 仕佐の心臓の鼓動が先程よりも速くなり、頭の中に直接響いているかのように反響していた。 彼等に見つかれば殺されるかも知れない。そんな不安が過ぎり、緊張と手の震えが相俟って仕佐に恐怖を与えていた。 (静まれ! 静まってくれ……!!) 仕佐はひたすらに心臓の鼓動を押さえつけようとしていた。そして、今頃気がついた。 (あ……! 『隠密』) 仕佐は『隠密』を使い足音を消す――と思いきや、心臓の鼓動の音を消した。この場に条夜でもいたのならば真っ先にツッコミを入れるだろうが、あいにくとツッコミ要員も人も居なかった。
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