第十話 帝国と王都

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(ふう、これで安心) 仕佐は安堵のため息をこぼした。それから男と少女の会話に耳を再び傾けようとした――その時だった。 ダァァァァン! 車同士が勢いよく衝突したような、そんな爆発音らしきでかい破裂音がその場に居た全員の鼓膜を響かせた。 「……予定外の事態が起こっても、私の視た予知は変わらないのね」 少女は驚くこともなく淡々とした口調で言った。仕佐はというと、びびりまくりで今にも心臓が飛び出そうなほど驚いていた。 それを聞いた男は一瞬怪訝そうにするが、特に問い詰めるでも無く無言のまま少女を見ていた。 「あら? さっきの音、気にならないの?」 男が無言のまま少女を見つめていたからか少女が口を開いた。男は一瞬間を開けてから、深く嘆願し言った。 「わざわざ確認しに行くより、お前が何か知ってそうだからな」 「あらま、それは迂闊だったわ」 「……それで、さっきの爆発はなんだ?」 少女は一瞬考えるように俯いたが、すぐに答えが見つかったのか、顔を上げ見透かすかのように前髪の奥から覗かせる両眼のオッドアイで男を見据えた。 男は少し怯んだが、負けずと睨み返した。 「気になるのなら……見に行ってみましょうか」 「……は?」 男は予想外の返しにキョトンとした。  それから少女は何も言わず歩き出してしまったので、男は言われるがまま少女に着いていった。 (助かった、のか?) 仕佐はようやくあの居心地の悪い空間から解放され、再び安堵のため息を吐いた。 そして仕佐は考えた。 このまま宿に帰り寝るか、男達の後を着いていくか。後者の場合、先程は運がよかっただけで危険を伴う可能性がある。かといってこのまま帰ってしまってはモヤモヤが残ってしまうだろう。 だが考えている暇などはない。そうこうしているうちに男達の後ろ姿はだんだんと見えなくなっている。ただでさえ辺り一面、見渡すことも出来ないほど暗いのにこれ以上見えなくなると、後を付けることも出来なくなってしまうだろう。          ◆ ◆ ◆ 仕佐は苦渋の判断を下した。 「……ただいまーっと」 あのまま男達を追いかけず宿に帰ってきたのだ。 仕佐は静かに部屋の戸を開けると、忍び足でそのまま布団に寝転んだ。 どうして追いかけなかったのか、それは仕佐が臆病だったから……ではない。 あの後、男達をつけようと物陰から立ち上がったときだった。一瞬フードを被っている少女と目が合った――気がしたのだ。もう既に男達との距離は十数メートルも出来てしまっている。それにこの暗さだ。人影くらいならまだしも、目を合わす事なんて出来ないだろうとそう思い、いや確信していた。それなのに視線を感じた上に目が合ったのだ。仕佐は恐怖により帰ってきてしまった。 まあ、その事を咎める人も居ないだろうが。
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