第十話 帝国と王都

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 お嬢様は迷わず一直線に歩き、一冊の本を棚から取り出した。  本のタイトルは『魔法の構築と術式Ⅲ』  お嬢様はその場で本を開くと、ペラペラとめくりだした。するとしおりが挟んであったページで止まった。  お嬢様はおもむろにそのページに書いてある内容を復唱しだした。 「――召喚魔法とは魔物を使役し、呼び出す方法と使用者の魔力量に応じて、その場しのぎで呼び出す二パターンある……」  お嬢様は今、召喚魔法の練習をしているのだ。お嬢様達の家柄上、代々魔物をテイムして友として過ごすことが一種の忠義となっている。  しかし、お嬢様はなぜかテイムの仕方ではなく召喚魔法の練習をしているのだ。 「はぁ……いくら読んでも魔法の理解が出来ませんわ……やはりわたしに魔法の素質は無いのかしら……」 「お嬢様……」  キャルが困ったように呟いた。すると突然キャルは呆れたようにため息をこぼすと 「理解は出来なくとも、一度試してみたら良いではないですか!」 「分かてるわよ! ……でも失敗したら、怖いでしょ……」  お嬢様は眼横から流れている銀髪の髪をいじり、オドオドしながら言った。  誰かが見ていたら呆れるほどの悩みなのだろうが、これが素のお嬢様なのだ。  お嬢様の性格とは逆に、キャルは失敗を省みずどんどん挑戦しよう精神なのでなかなか馬が合わず、キャル自身も困っているのだ。  と、そこへ扉を叩く音がした。  コンコン、コン 「――遊びに来てあげたわよ!!」  まるで、遊びたい盛りの子どものような無邪気な声とともに扉の前で腰に手を当てている幼……少女はなぜか得意げな顔で立っていた。  二人は突然の出来事に一瞬驚くが、すぐに状況を理解した。  一度ため息を零すとキャルは扉の前まで行き、そっと開け放たれた扉を閉めた。 「ちょ、何してるのよ!」  無抵抗のまま扉を占められ声を上げる幼……少女。  実はこの部屋だけは外側からしか鍵をかけられないようになっている。そのためキャルはあくまで開いた扉を閉めただけなのだ。 「……そろそろ戻りますかぁ」  キャルは、まるで何事もなかったかのようにそう言うと先程閉めた扉の前へ行き、閉めた扉を再び開けた。 「……なんで普通に出て来るのよ!」  扉を閉められたのにも関わらず、どこへ行こうともせず扉の前に立っていたようだ。  お嬢様はため息一つ零すとわざとらしく訊いた。 「はぁ……何か用でして?」  幼……少女は軽く息を吸うと、少し大きめの声で言った。 「どうせフェルル姉様は休日を暇で持て余していると思って、遊びに来てあげ――ってどこに行くのよ!!」  お嬢様は最後まで話を聞かずそのまま通り過ぎようとしたが、名指しで呼び止められた。  フェルルと呼ばれた少女は呆れたように立ち止まり、振り返った。 「……用はそれだけでして? 私は忙しいんですのシャル」 「むぅ……」  シャルは意地悪なフェルル(姉様)に頬を膨らませながら唸った。
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