第十話 帝国と王都

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 この光景を見ている警備員二人とキャルは、半ばほんわかしながらこの姉妹を見守っている。 「……あ、そうでした。フェルル姉様にお手紙が来ているんだった!」 「言葉遣いがはしたないですわよシャル。……手紙?」  フェルルは妹の言葉遣いを訂正したのち、気になる単語が聞こえ復唱した。  シャルはどこからともなく手紙を取り出すと、丁寧にフェルルに渡した。 「……これは帝国の紋章。龍に囚われているかのような彫刻……間違いない、ドラグナイト東帝国からの手紙だわ」  フェルルはどこからの手紙かわかるや否や、すぐさま手紙を開封し内容を読み出した。  中には大小の大きさが違う三枚の紙が入っており、大きいほうの紙は文字がずらりと書かれていた。もう一つの小さい紙はトランプくらいの大きさで二枚同じ物が封入されていた。  ――ご武運をお祈りしています。 「――って、どうして私が帝国に行かないといけないんですの! ご丁寧に帝国行きの船のチケットまで用意されているし……」 「お嬢様……お屋敷を初めて出れますね!」  普段はこの国のお姫様として外出が許されない立場だが、お姫様の仕事の一環としてなら外出することができるのだ。  そして今日、アスタリア王国のお姫様、フィルクラム・フォン・アスタリア第一王女は帝国へと行く!! 「――こんな外出の仕方はいやですわ!」 「でも、外に出られることはうれしいんじゃないの?」  口では否定しても内心、どちらにせよ外に出られるのだからうれしさのほうが勝ってしまう。追い打ちをかけるかのようにシャルから言われ、気がつくと迷うことなくうなずいていた。 「心細いのならあたしが着いていってあげてもいいんだからね?」  シャルの年下とは思えない気が利く言動に一瞬フェルルの心は動くが、ふとあることを思い出し断ざるを得なかった。 「いえ……船のチケット、私とキャルの二人分しかないのでシャルは無理ですわね」  フェルルは申し訳なさそうに言った。  シャルの心遣いが……といえば野暮になってしまうが、事実、船のチケットは二人分しか用意されていなかった。  驚愕の事実を思い知らされ、シャルは口を開けたまま呆然とした。 「そん……な…………」  かなりへこんでいたシャルを見て、フェルルは助け船を出した。 「……あ~……シャル? 着いていきたいのならお父様に頼んでみては」 これがまさしく……  “必殺! 親の力!!” 「そ、そうよね! お父様に頼めばきっとあたしも同行させてくれるに違いないわ!」  シャルは機嫌を取り戻し、すぐさま駆けていってしまった。  取り残されたフェルル達はやれやれと言った様子でシャルの後ろ姿を見送った。 「――それでは私もこの辺で失礼しますね」  フェルルがそう言うと、キャルも後に続き一礼した。警備員二人もお礼の言葉を言うと頭を下げて業務に戻った。 「八日までには戻ってこないと行けませんね……」 「今から行って明日中に帰れば問題ないですね~」  そんな話をしながら二人は自室へ戻っていった。
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