第十一話 魔獣と兵士

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 影兎達は馬車に揺られながら1000年前、帝国で引き起こった『始りの終焉』について聴いていた。  始めはドキドキしながら聴いていた二人だったが、次第に興味より圧倒的怖さが膨れ上がり、影兎はあまりの気持ち悪さに嘔吐してしまった。 「おえっ……」 「ちょっ、えっちゃん大丈夫?」  咲夜は影兎の背中を擦りながら優しく訊いた。  流石に影兎は馬車の中には吐かず、馬車から乗り出し外へ出していた。 「これ以上は影兎さんの前では話さないほうがいいですね」  咲夜も同意見だったらしく、トリスさんに一瞬意識を向け軽く会釈すると再び影兎の背中を擦った。 「……ごめん、さくちゃん。おえっ……多分車酔いもあるかも……」  影兎は咲夜に介抱されながらそう言った。この場合車酔いというよりかは、馬車酔いと言ったほうが正しいのかもしれないが、言い換える余裕も影兎には残っていなかった。  影兎は少し吐き気がなくなり、楽になったのか横になり寝た。  ――しばらく無言の時間が続いた。  馬車が不規則に鳴らす車輪の音、時折小石を踏んでいるのかガタガタと震える木音。  道はあまり整備されていないのか、終始揺れていた。  ふと外へ意識を集中させると、遠くから剣戟の音が耳を掠めた。しかし、聞こえたのは一瞬だったためどこから聞こえたのかは見当も付かなかった。  今度は外を眼に収めてみた。  運悪く岩壁が目の前に現れ、外の景色を堪能することは出来なかったが、外へ顔を出したことにより、熱くも冷たくもない心地よい風が頬を掠め先程までの緊張感が一気に抜けていくのが感じられた。  影兎は枕にする物がないからか、地面に頭を付けて眠っていた。時折、馬車が跳ねると影兎の頭も心地悪そうに跳ね上がっている。  咲夜は、影兎の頭をスッと持ち自分の膝の上へ乗せた。  先程まで地面に頭をぶつけるたび、顔を顰めていた影兎だったが、膝の上に乗り楽になったからか、それとも良い夢を見ているのか、安堵の表情を浮かべ「すぅー」と寝息を立てながら眠ってしまった。  咲夜は影兎の頬を撫でながら柔和な笑みを浮かべた。  そして、ポツリと影兎のことを話し出した。 「……えっちゃん、昔から乗り物酔いが酷くて。だから必ずどこかに行くときは寝てたんです。小学生までは……」  咲夜はトリスさんの方は見ず、影兎の頬をを優しく撫でながら、まるで我が子のように言葉を紡いだ。 「……中学生になってからは、外出する機会がなぜか減ったんだよね。一時期は焦ったな~、このままえっちゃん引き籠もっちゃうのかと……」  始めは敬語で話していたものの、だんだんと崩れ、いつの間にかあの頃を幾つしみながら話していた。 「……だから私、休みの日には必ずえっちゃんの家に行っていろんな所に連れ回して、私の好きな本をおすすめしたり、ちょっとおしゃれな店に行ったりして、そしたら自然とそれがルーティンになっちゃって」  えへへと、笑いを零しながら語る咲夜。 「……つい何日か前に()()()()()()に来て一事はどうなるのかと思ったけど、えっちゃんも楽しそうで良かった」  咲夜は何かを思い出したのか、目から雫が溢れかけていた。
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