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影兎が声を上げ驚き、咲夜が目を見張った。
「え。あ、あんなのと戦うの?」
影兎は震える唇で言葉を繋いだ。そんな影兎に対しトリスさんは普通の声色で、あたかも朝食出来てるよーとでも言うかのように言った。
「あれと戦ったらほぼ確実に死にますよ? それに、あの魔物達は群れを好む習性を持っているので狙われたら最期ですね」
さらっとそんなことを口走り出すものだから影兎は気絶しかけた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。帝国でしか生息できないので」
「そ、そうなんだ……」
影兎はほっと胸をなで下ろした。それからもう一度木の上にいる魔物を見た。
(うわぁ……なんか改めてみると気持ち悪いな……)
遠巻きからでも思わず身震いしたくなるようなあの魔物の姿はまるで蜘蛛とムカデのキメラかのようだった。とにかく気持ち悪い、見ているだけで吐き気が……
「あ。あんまり見ない方が良いですよ、影兎さん。あいつら精神異常のスキルを持っているので……って遅かったか」
トリスさんが気付いた頃には影兎はあまりの気持ち悪さに吐き出していた。
咲夜はよくは見ていなかったらしく精神異常をきたすことはなかったが目眩を発症させていた。
「あぁ……私の説明不足ですね。すみません」
トリスさんは二人に謝りながら状態異常回復のポーションを飲ませてくれた。
――やっと目的地に着いた。道中なんやかんやあり影兎も咲夜も憔悴しきっていた。
二人とも馬車から降りると目の前の光景に絶句した。
「な、なにあれ……」
目の前には大量の死体と、寝ているのか丸くなっているデス・サーペントの姿があった。
死体はデス・サーペントによって食い散らかされあちこちに肢体が転がっていた。
「あ、あれと、戦うんです、か?」
影兎は震えながらトリスさんに訊いた。
「正確には“戦う”ではなく“討伐する”ですけどね」
影兎は目の前の肢体は見ないように空を見上げた。
大きく息を吸――錆びた鉄の臭いが鼻を刺激した。
「すぅ…………うっ! げほっげほっ」
思わず咳き込み鼻を押さえた。
咲夜は大丈夫かなと空を仰いだまま首だけ振り返った。
「デス・サーペント、ね……私の経験値になって貰おうか」
何やらそんなことを言っており、戦う気満々のようだった。
「影兎さん、戦闘が難しそうなら下がっていても良いですよ」
トリスさんから甘い言葉が掛かった。でもここで下がれば咲夜だけが戦う羽目になってしまう。そんな葛藤もあり、影兎はデス・サーペントと戦うことに決めた。
影兎は深呼吸――すると刺激が強いので軽めに呼吸すると、息を整えた。
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