第十一話 魔獣と兵士

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「大丈夫です。僕も……戦います」  咲夜が影兎の隣に立つと、トリスさんは影兎に一言だけ言うや少し離れた場所に移った。  影兎はトリスさんの合図を待った。 「岩石よ、その遥か上空より振り落とされし隕石となれ『岩雨(メテオ)』」  トリスさんの放った土と火の複合魔法「岩雨」はデス・サーペントの頭上に降り注ぐようにして飛来した。  岩雨が地面に落ちた衝動で砂浜がえぐられると同時に砂埃が一気に巻き上がった。すかさず咲夜が風属性魔法「竜巻」で砂埃を蹴散らした。  ――デス・サーペントがいなかった。 「影兎さん右です!」  後方にいるトリスさんから声が聞こえた。すぐさま思考を切り換え右を向くと、完全に目を覚ましたデス・サーペントの姿があった。  先程の「岩雨」はしっかり命中していたようだ。鑑定スキルで相手の状態を見たところ新しく「火傷」が付与されていたのだ。  影兎はもう一度呼吸を整え魔法発動のタイミングを謀った。……とはいっても影兎が使える魔法は一つしかないのだが…… 「――『火炎(ピョーガ)』!」  砂埃を撒き散らすと同時に火属性魔法『火炎』を放った。約一メートルの大きさまで膨らました『火炎』がデス・サーペントの顔へ飛来した。(長いのでデス・サーペントのことはD.Sと呼ぼう)  D.Sは口を大きく開け『毒霧』で相殺した。  『毒霧』に包まれた『火炎』は徐々に炎の勢いをなくしていき火種となって消えた。 「効かない?! ……トリスさんどうやって倒すの!」 「D.S(デス・サーペント)は魔法相殺が得意で物理攻撃以外は特にダメージないです。なので――」 「トリスさんみたいに攻撃すればいいんだね」  トリスさんが最後まで言い終わる前に咲夜が後の言葉を繋いだ。  咲夜が一瞬振り向いたその隙にD.Sは大きく口を開き何かを溜めだした。すかさず影兎がほぼ反射的に前へ出た。 「危ない! 『水守(デバイストシールド)』」  『毒霧』は影兎めがけて放たれたが咄嗟に『水守』を使ったことにより水が毒を包み込んだ。毒は水と融合しながらやがて速度が低下し水と一緒に地面へ落下すると消滅した。  影兎が一息をついていると咲夜が駆け寄ってきた。 「ごめん、大丈夫?」  影兎は「大丈夫」と身振りで説明すると「それより……」と付け加えた。  咲夜も影兎に続き視線をD.Sへ向けた。  先程と変わらずD.Sは視線を影兎達に合わせたまま動かそうとしない。 「……えっちゃんは左から撃って、私は右から行くから」   D.Sと視線を外さず咲夜は作戦を影兎に伝えた。同じく影兎もD.Sから目を離さずゆっくり頷いた。 「行くよ? 1、2、3!」  咲夜の合図とともに影兎はD.Sの左側へ全力で走った。回り込んだところで咲夜も位置についたようだ。ヘイトは――咲夜に合っている。D.Sは咲夜に顔を向けて威嚇している。だが尻尾は影兎に向いており、うねうねといつでも襲いかかってきそうだ。 「『弓生成』『付与(エンチャント)氷刃』」  今のうちに影兎は闇属性魔法『弓生成』で弓を創り、無属性魔法『付与(エンチャント)』で氷刃を矢じりに付けた。  弓を構えると矢をセットしゆっくり引き、狙いを定めた。  同じく咲夜はスキルで身体能力を1.5倍に引き上げると左手に『火炎』右手に『竜巻』を出現させた。そのまま両手をD.Sに向けると狙いを定めた。
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