第十一話 魔獣と兵士

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 ――数秒後そこは戦場と化した。  影兎の放った矢はD.S(デス・サーペント)の胴体に深々と突き刺さった。咲夜はというと撃つ直前に小細工をしており火炎が竜巻の中心に匿われていた。それをすごいスピードで放ちD.Sの左眼が焼き焦げた。D.Sは一瞬遅れてから攻撃を喰らったことを自覚した。 「……フシャァァ!」  D.Sは雄叫びをあげながら首を左右に激しく振った。ちょっと遅れてから氷刃の効果が発揮されだした。D.Sの胴体――腹部に刺さった矢から少しずつ冷気が漏れ出し肉が凍り始めていたのだ。すかさず影兎はもう一発同じ場所に矢を放った。冷気が倍になって溢れ出しむき出しになった肉は完全に凍結してしまった。 「よし」 (最初にステータス見たときに魔法が一つしかなかったけど、工夫次第で簡単につくることができるんだね)  そう、これらの魔法はもともと影兎は持っていなかった。しかし、D.Sとの戦いに備えて道中の馬車で編み出していたのだ。  D.Sは咲夜の攻撃で左眼をやられ、影兎の攻撃で腹部を凍結された。これではまともに影兎達を視界に入れることも素早く動くこともできなくなった。そこでD.Sは次の行動に移った。 「フシャァァ!!」  さっきの雄叫びよりも数段高い音で声を上げた。あまりの甲高さに影兎達は耳を抑えた。数秒間鳴り響くと鳴り止み、やがて別の音が聞こえてきだした。  ドドドドド  D.Sの幼体だろうか、影兎と同じ背丈の蛇がたくさん寄ってきた。たまらず影兎と咲夜はD.Sから距離を取った。お互い背中を合わせるといつのまにかD.Sの幼体に囲まれていた。 「なんなのよもう!」  咲夜はたまらず声を上げた。 「この数は……さすがに」  かくいう影兎も同じ気持ちで大きく息を吸うとため息を付いた。  なにげなしに影兎はD.Sをみた。なんとD.Sは大きく口を開けまた『毒霧』を溜めていた。すぐさま咲夜に肘付きをしここかから離れるよう促した。  「バシュッ」という音とともに『毒霧』が飛来してきた。影兎と咲夜同時にジャンプして回避すると――地上に降りずに空中から下の様子を伺った。咲夜が『竜巻』を器用に使い空中の足場にしたのだ。  影兎達がジャンプすると同時に放たれた『毒霧』は地面へ霧散し、D.Sの幼体がそこへ突っ込んで行っていた。これがもし咲夜の機転がなく地面へ降り立っていたと思うと……  影兎災厄な状況の未来を想像し……頭を振って霧散させた。 「まとめてっ『水刃氷雪(フリーズドチェイン)』」  幼体が一箇所に集合してるのをいいことに影兎は極魔法『水刃氷雪』を使った。『水刃氷雪』の効果は直径三十メートル以内にいる敵の動きを鈍らせ氷像にさせてしまうという、使い方によっては恐ろしい魔法だ。  真ん中にいる幼体を中心にして円球状に吹き荒れる吹雪と共に広がり地面もろとも凍り付いた。そこだけを見るとまるで“氷河”一歩外に出るとゴツゴツとした岩の地面に空には燦々と眩く照る太陽。  氷河は溶かされることを知らず、炎天下でもひび割れ一つせず氷の世界を保っていた。
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