第十二話 龍疾ユングヴィ・ドラゴン

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第十二話 龍疾ユングヴィ・ドラゴン

「……いないって何がですか?」  とぼけたようでも悪戯のトーンでもない至って真面目に、普通に訊いてきた。 「え? なにがって……D.S(デス・サーペント)の幼体……」  咲夜は混乱しながら不安顔で尋ねた。 「「幼体?」」  二人が声を揃えて首を傾げた。咲夜は必死に幼体の事を伝えようとしたが二人は首を傾げるばかりか聞く耳をあまり持ってはくれなかった。 「んぅ……さくちゃん?」  完全に目を覚ましたらしい影兎がゆっくりと寝そべった状態から両手を使って起き上がった。 「影兎さんあまり無茶してはいけませんよ? 特に最後の一発は」  影兎は「気をつけます」と言うと両足を付けて地面に立ち上がった。それから 「魔力もHpも回復してる……ありがとうございます」  自分のステータスを確認し減少していた数字が回復していることに気がついた。すぐさまトリスさん達に向き直り礼をいった。そして咲夜の方にも身体ごと向くとゆっくりとまぶたを閉じた。  咲夜は何かあるのだろうと少し待った。少しするとトリスさん達には聞こえないくらいの小声で切羽詰まった様子で言った。 「……あのフード男、港にもいた」 「っ?!」  今日は驚くことばかりだ。横目でトリスさん達を見ると幸いにも二人で談笑しており、こちらの話は聞いていないようだった。  ため息をつき呼吸を整え影兎を見据えると額から汗が垂れていた。顔を窺うとかなり焦っているような、困惑しているような表情だった。咲夜と目が合うと意を決したように小声で話してきた。 「港についてすぐ物珍しくて辺りを見回してたんだけど……そのときにさっきもフード男がいて、鑑定したら……能力がおかしかった」 「能力がおかしい?」  すぐには理解できず反射的に聞き返した。 「うん……。職業、名前、属性が“不明”になって見れなかった。それにLvが確か67もあった」 「不明になって見えたのは鑑定のランクが足りないからとかじゃないの?」 「僕とさくちゃんの鑑定スキルはAランクまで来てるし……さすがにそれはないと思うけど」 「でもLvが67あるのはその人が経験値稼いでるからとしか言いようがないと思うよ」  さすがにこの世界に来たばかりの二人ではこれ以上なにも判らない。かといって今のトリスさん達が聞く耳を持ってくれるかどうかもかなり怪しい。  咲夜はトリスさんに一声掛け馬車に乗り込んだ。影兎も続いて馬車に乗り込んだ。 「トリスさん達は何してるの?」  影兎はD.Sの前に座り込んで何かをしているトリスさん達を見ながら言った。馬車の中からでは少し距離があり何をしているかまでは判らない。 「魔物の素材回収。冒険者ならあたりまえだよね」  影兎は物珍しそうに遠くを見据えた。咲夜は「定番よね~」と言いながら頭を左右に振った。 「それでえっちゃん、さっきのことなんだけ――」 「ねえ、あれ……何?」  咲夜の言葉は最後まで続かず影兎の怯えた声によってかき消された。
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