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影兎があまりにも怯えた声で言うので咲夜も気になり同じ窓から外を一望した。影兎に促されそれを見た。
「なに……あれ……」
咲夜も影兎と同じ感想しか出なかった。いやそれ以外に言い表しようがなかったのだ。
――龍。いやファンタジー世界でよく見る神話の生き物“ドラゴン”だ。
漆黒の鱗に身を包む巨体は天高くから図体よりも遥かに大きい翼をはためかせ砂埃を撒き散らせながら舞い降りてきたのだ。
「ドラゴン?! トリスさん達がっ……?!」
危ない、という暇すらなくおかしな光景が目に映った。ドラゴンは地に足を付け二足歩行で立っているのだが、なぜかトリスさん達は逃げようとも戦おうともせず地に膝を付けている。
ここからでは遠すぎて顔の表情なんて窺えないが、なにせ相手は神話のドラゴンなのだ。威圧系のスキルや畏怖を与えるスキルでも持っていても不思議ではない。
咲夜はすぐさま助けに行こうと判断した。
「……? ちょ、えっちゃん?」
影兎は立ち上がろうとした咲夜の裾を掴んで止めた。
「あれは……まずい……やばい……」
影兎はそう呟いた。咲夜はそんなことは知っていると言わんばかりに頭を傾げた。
「それは見ればわかるでしょ? なにがそんなに……」
――そう一瞬の出来事だった。経った一瞬、目を離した隙にそれが起こったのだ。
咲夜は目を見開き、影兎は頭を抱えながら目を瞑った。
――次の瞬間咲夜は走り出していた。影兎が手を緩めた隙に窓から飛び出し駆け出したのだ。
「?! さくちゃん!」
影兎は咲夜に制止するよう促すが、その声は届くことなく瞬きをした一秒後には十メートルも先にいた。
(『疾風風紀』!! こんなところで出し惜しみしてる場合じゃない……速く、速く!)
咲夜は走った。
奔った。
一秒でも速く、光よりも速く、音よりも速く。
――トリスさん達が死ぬ前に。
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