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真っ先に目に飛び込んできたのは浴場の大きさだ。浴場は意外と広く、十×十五メートルほどある。天井は五メートル以上あり、光る苔のようなものがたくさん付着していた。恐らくこれが照明なのだろう。しかも、これまたすごいことに露天風呂も着いていた。
桶が浴槽の縁に置かれていたので屈みながら手に取ると、浴槽のお湯をそっと汲んだ。それを汲んだ手とは対角の肩から掛け流す。
「んん~、気持ち良い~」
思わず咲夜は歓喜の声を上げた。そのまま咲夜は湯船に浸かろうと思い足を上げると理琉に声で制止された。
「あ、あの……先に洗いませんか?」
後ろを振り返ると、タオルで前を隠している理琉の姿があった。咲夜は一瞬悩むと
「あ、ならさ──」
(……やっぱり理琉ちゃん? いやみーちゃんかな、うん)
咲夜はどうでも良いことを考えながら理琉に背中を流して貰っていた。そして目の前には鏡。
(それにしてもなかなか……服の上からじゃよく分からなかったけど意外とあるんだ)
しれっと鏡で自分のと理琉のを見比べている咲夜だった。だが会話らしい会話は一切しておらず水の音だけが聞こえている。
このあとちゃんと咲夜も理琉の背中を流してあげた。
ちなみに咲夜はタオルなんぞは持って入っておらず一切隠す素振りもしていない。髪は肩まで流しているが流石に浴槽のお湯に浸けるわけにもいかないので、軽くお団子を作り湯船に浸かった。
「あぁ~、暖ったまる~」
咲夜は窓際に浸かり壁に背中を預けた。理琉は少し離れた場所で湯船に浸かっている。
「……みーちゃんは今日楽しかった?」
あまりにも無言だったため咲夜が耐えきれず口を開いた。
「…………」
「…………」
「……え、あ。もしかしてわ、私に言いましたか?」
理琉は戸惑ったように言った。咲夜は眼をぱちくりとさせると声を上げて笑った。
「あはは。そっか、そうだよね。あはは! うん、そうだよ」
咲夜は目尻に涙を浮かべながら騒いだ。理琉はというと更に困惑しており、困った顔を咲夜に向けていた。ひとしきり笑うと咲夜が言葉を紡いだ。
「みーちゃん! 楽しかった?」
「え? そ、そうですね……」
理琉は斜め上を見ながら考えた。
「楽っ……あ、咲夜さんにはご迷惑をおひゃへふぃて……にゃ、にゃにひゅるんでひゅか~」
咲夜は理琉の頬を両側から軽く引っ張った。突然の出来事だったため理琉はまともな言葉にならずふにゃふにゃした感じになってしまった。
「昔のことはもう気にしなくて良いんだって。今は……この後、この先のことだけを考えれば良いんだよ」
咲夜は理琉の頬から手を離すと、その手を腰にあて胸を張ってそう言った。
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