第十四話 いたずらとお風呂

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(……さて、お風呂の定番と言えば……)  咲夜は足だけを湯船に付け腰を浴槽の縁に降ろした。そして「ふう」と息を吐くと()()耳を傾けた。         ◆ ◆ ◆ 「影兎さん達はここに来てからどのくらい経つのですか?」 「……」 「……え、えっと影兎さん?」 「……ぁ、ぅ……」  男三人、同じ湯船に入ってはいるが影兎だけは角っこに体育座りしている。そこに猟魔が隣に座り話しかけているが全くもって会話が成立していない、これが今の現状だ。 (やばい、もう無理だ。ずっと我慢してたけどさすがにさくちゃんがいないと会話なんか出来ないよ!)  そう、影兎は極度の人見知りだ。トリスさんの時は途中まで咲夜が居てくれたため羞恥だけでなんとか乗りきったが、今は蒼磨と猟魔しかいない。ましてや壁を一枚挟んだ向こう側には咲夜と美玲がいるに入るが、その距離で会話兼通訳をになって貰うのも不可能だ。  ちらっと猟魔を見るとなにやら蒼磨と話しているようだった。再び影兎は顔を両膝の中に埋めた。そしてため息を吐く。 「……なにがいけないのでしょう?」 「おまえがうざいんじゃねぇか?」 「……自分のことをよく見てから言ってください」 「はぁ? 猟魔は俺のことそんなふうに思ってたのか? あぁん?」  売り言葉に買い言葉。お互い腕を掴みながら罵詈雑言を吐き始めた。  影兎はザバッと立ち上がると湯船から出るべく歩いた。影兎が突拍子もなく立ったからだろうか猟魔と蒼磨は目を点にしたまま影兎の行く末を見ていた。やがて脱衣所に入っていくのを見届けるとお互い掴み合っていた腕を解いた。  するとタイミングが良いのか悪いのか壁の向こう側から声が飛んできた。 「──あんたたちー! えっちゃんに手出したら許さないからねー!」  反響して大きく聞こえた声に驚きつつも二人はそろいもそろってため息を零した。 「いや、手を出すもなにも会話すら出来ませんでしたし……」 「いや、手を出すもなにも勝手にあいつ出て行ったんだが……」  脱衣所にジト目を向けながら二人して呆れたようにそう言った。  ──二人も程なくして風呂から出ると(いつの間にか)用意されていた服に着替えると脱衣所を出た。  足首まである少しダボッとした長ズボンに白を基調とした半袖、その上から羽織るようにしてマント……コートのようなものを着ている。これが男子の格好だった。 「おまえ全然似合わねぇな!」 「蒼磨こそ、その白のシャツとか全く似合っていませんけどね!」  影兎はまた隅っこにいるがどうやら二人には気付かれていないらしく、また喧嘩をおっぱじめようとしていた。  と、タイミング良く美玲と咲夜の話し声が聞こえてくると、今にでも火花が飛び交いそうだったにもかかわらずその話し声だけでピタリと止まった。 「──あ、待った?」 「いえ、我々も先程上がったばかりですので」  先程の喧嘩がまるでそんなことはなかったよと言わんばかりに蒼磨は明るく言った。
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