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第十六話 毒と地下
――翌朝。影兎は昨日の出来事をすっかりと忘れて起床した。
「ふわぁ……よく寝た~」
背伸びをし身体を伸ばす。顔を洗うためベットから下りて廊下へ出た。洗面台で顔を洗ってくると部屋に戻り窓のカーテンを開く。暖かな陽光が暗がりに差し込み窓の周辺だけが明るくなった。そのまま窓も開け空気の入れ替えをする。日は暖かいが早朝なだけあり風は少し冷たかった。
さて、ここまでで五分くらい経っているがいまだベットで蹲っている人がいる。
「さくちゃん……朝だよ~……起きて~」
影兎は咲夜の身体を少し揺すりながら声を掛けた。……だが反応がない。影兎はやれやれと思うと布団を両手で掴み勢いよく引っ剥がした。
バサァ。
布団は持ち上げられた後重力によってベットの足下へ着地した。
布団があって分からなかったがいつの間にかベットの中央に移動していた咲夜が大の字で寝ていた。影兎は無言で見つめ、少しすると咲夜が突然動き出した。
「へっくしゅん! ……寒っ」
窓は全開、掛け布団も無い。早朝の冷たい風が大の字で寝ている咲夜に直でクリーンヒットした。咲夜はあまりの寒さに飛び起きた。影兎を見つけると横目で見ながらため息をついた。
「……はぁ、もうちょっと他の起こし方してよ~。私が風邪引いたらどうするのよ!」
「……今までいろんな起こし方してきたけど、確実に起きるのはこの方法だったよ? それにさくちゃん風邪引いたことなんてめったにないでしょ……」
今度は影兎がジト目で咲夜を見つめた。咲夜は目を逸らしながら頬を膨らませる。影兎はため息を一つ零すと話題を変えた。
「で、いつもの日課はするの? 異世界に来てまで?」
「う~ん……良い場所があればいいけど」
咲夜はそう言いながら足下にあった布団を引っ張り肩に掛けると自然な動作で丸まった。影兎は呆れたような口調で言った。
「……はぁ。起きないとさくちゃんの朝ご飯はないからね」
「ちょっ、ちょっとそれだけはダメー!」
咲夜は布団から勢いよく飛び出てくると窓の前まで行き涼しい風を受けると影兎に振り返った。
「わたしはえっちゃんのご飯じゃないと力が出ないんだよ!」
影兎は呆れたような、嬉しいような気持ちで苦笑いを零した。
影兎はカバンから制服のシャツを取り出すと、先程まで着ていた服を脱ぎ椅子に掛けた。ズボンも脱ぎ、ハーフパンツを履くとこちらも椅子に掛けた。
後ろを振り返ると、丁度咲夜も着替えが終わったようで腕を横に伸ばしていた。
「じゃ、行こうか」
影兎が咲夜の準備が出来ていることに気付くと普通に声を掛けた。
だが、なぜか咲夜は不服そうな、納得がいっていないように頬を膨らませた顔で影兎を見ていた。
「……?」
「普通はさ~……女の子が着替えてるんだよ? 気になったり、それなりの反応してくれてもいいのに」
「……いやいやいや。さくちゃんだよ? なにを今更」
影兎は苦笑いを含めながら速否定した。
「それに、僕なんかに期待しても無駄だからね。さ、行こう」
影兎はあくまでも淡々と話した。そのまま話を切り上げるとドアに向かって歩き始めた。
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