第十六話 毒と地下

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「まあ、空間把握がこの世界に存在してるかは知らないけどね」 「え? ……どういうこと」  咲夜は少し唸りながらどう説明するか悩み、口を開いた。 「……こういう“異世界”ってさ基本的には想像上の、空想上のものでしょ? 私達からしたら」 「確かに、そうだね」 「小説も、漫画も一人の想像から、妄想から作られた話が世に出てみんなが愛読してる。でも結局はいろんな人が様々な物語を、多種多様な異世界を創造してるから、魔法やスキルは作者によって効果も名前も変わってきてしまう……」  咲夜は少し悲しそうにしながら言葉を紡いだ。咲夜は「でも」と続けて下に向きかけた顔を上げて前を向いた。 「そんな世界だからこそ、こんな物語だからこそ……異世界モノは飽きないし、すっごく面白いんだよ! 作者によってスキルや魔法の使い方も変われば、詠唱も全然違ったりするし! この世界は本っ当に……」 「おもしろい!」「くそつまらねぇ……」  影兎と咲夜は突然の野太い声に驚いた。道の先に視線を飛ばすと誰かが座っているのを両目に捉えた。影兎はすぐ警戒しそいつを睨むように見た。逆に咲夜はあまり警戒せず困ったように眺めた。  咲夜は少しずつ歩み寄っていくとその人の目の前で屈んだ。 「ちょ、さくちゃん……」  影兎は危ないから止めようとしたが咲夜は小声で「大丈夫、大丈夫」と言って行ってしまった。 「ねぇ、何してるの? こんなところで」  壁にもたれかかり片足だけ伸ばし、片足は立てそれを両腕で抱いている。フード付きのケープを羽織っており顔まではよく見えないがさっきの声からしておそらく男性だ。  ゆっくりと顔をあげると虚ろな目を周囲に彷徨わせながらこう言った。 「……おまえら、こんな世界が面白いだなんて……どうかしてるぞ」  あくまでさっき聞こえたことを咲夜に言っているだけのように見えるが、なぜかこの男の言動からは自分に言い聞かせているようにも見える。咲夜は笑顔でなんの陰りのない笑みを携えると、男の耳に残るような遅さで言葉を繋いだ。 「それは、本気で言ってる? ……本当にこんな世界から逃げたいと、おもしろくないと本気で言ってる?」  男は一瞬気圧されたように言葉に詰まるが、軽く笑い飛ばすと被っていたフードを取った。  口元には長いひげを携え、前髪は鼻の辺りまで伸びている。目元はキリッとしておりこんな野太い声でなければかなりモテていたのではなかろうか。 「俺はこの世界から逃げたいわけでも、生きる意味を探しているわけでもないさ……俺の目的は、不正召喚された勇者を抹殺すること。それだけだからな」 「……不正召喚?」  影兎と咲夜は一瞬ビクッとするが気になる言葉があったため聞き返した。
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