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「おまえらが知ってるか知らないかはどうでもいいが、この世界は勇者召喚が最大で五回まで出来るせいで失敗して召喚された勇者がいる。ほぼ確実にな」
二人は黙って聞いている。ツッコミなどは一切入れずただ黙々と耳を傾けていた。余計なことを言えば殺されるかも知れないからだ。
「ま、失敗して召喚された奴らは俺の管轄じゃぁない。不正召喚された奴らはもうすでにこの街にいる。俺はそいつらを……この世界のために殺さなければいけない」
男は微かに目を光らせた。そこには強い意志が籠もっている。絶対に殺す。失敗は許されないと言わんばかりの殺気が籠もっていた。
咲夜は思いきって恐る恐る口を開いた。
「……不正召喚された奴らを殺さなかったら、この世界はどうなるの?」
「さぁな。俺が聞いたのは世界の均衡が崩れるとか、厄災が再び訪れるとかだな。他にも色々あったが……忘れた」
男はゆっくり壁に背中を預けたまま立ち上がった。虚ろな目を少し周囲に彷徨わせると、今気付いたかのように咲夜の方を向いた。すると自嘲するように言葉を吐き捨てた。
「悪いな、目が逝かれちまってんだ」
咲夜も慌てて立ち上がり数歩下がって影兎の隣に並んだ。
「……お前ら、俺がなんでこんな話をしたと思う?」
二人に緊張が奔る。咲夜はすぐに戦闘できるよう右手を後ろに隠し魔力を集め始めた。『光明』が思ったよりも高い位置にあるため、男の顔色が長い前髪のせいで全く窺えない。今なにを考えているのかさえも、今から何をするつもりなのかも沈黙だけが思考の邪魔をしてくる。
「…………不正召喚された奴らどこに居るか、お前らは見当が付いてるよな?」
咲夜は引き攣った笑みを浮かべながら汗を流した。
「さ、さあ。私達は……分からない、かな……」
「分からなくても予想くらいは付いてるんじゃないのか? ほらそこの城に匿われてるだろ?」
男は咲夜の言動に少し意外そうにしながら親指で後ろの壁を指した。
「俺としては早めに殺したい。だがな、いかんせんこの城の警備は異常なほどに多いんだ。そこでだ、お前ら俺に協力してくれねぇか? 城の警備を手薄にして脱出経路さえ確保できれば良い。簡単だろ?」
男はニヤニヤしながら挑発的な笑みを浮かべる。
突然『光明』が少し点滅した。もう一分もしないうちに消えてしまう。真っ暗になった空間で目が見えない男とは分が悪い。最悪なタイミングで選択を強いられてしまった。
(こいつの協力をすれば十中八九蒼磨達は死ぬ。かといってここで拒否すれば私達の身も危ない。走って逃げることも、難しい……完全にこいつのフィールド内に足を踏み入れてしまったわけね)
どうするのが一番先決か考えるがなかなか良い案が浮かばない。かといってあまり考える時間もない。ならどうすれば、咲夜はひたすら考え今まで見てきた作品を思い返していた。
(こういうとき主人公は、何をしてる? どうやってこのピンチを乗り越えてる?)
少しずつ『光明』の点滅が激しくなり、明るさも小さくなっていく。
と、その時複数の声が反響して聞こえた。
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