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第十七話 ヒーローはやってこない
と、その時複数の声が反響して聞こえた。
「――本当にこんな所にいるの?」
「いやいやいや、それ確かめるために来たんだろ?」
場違いなほどに楽しそうな声、それでいてこの状況、この場所を楽しんでいるかのよう。まるで数分前の咲夜達のようだ。
だんだんと声は近付き通路の先から灯りが漏れた。その瞬間咲夜の『光明』は消滅した。二人分の影が地面に映し出される。咲夜達に気がついたのか一人が声を上げた。
「ん? ……あそこ誰か居ない?」
咲夜と影兎は少し眩しかったため腕で目を覆った。男は視線は周囲に彷徨わせるだけで眩しいなどの感情は無さそうだ。
「えっと、お取り込み中ですか?」
「……」
三人とも何も答えない。いや、咲夜と影兎は声が出せないと言った方が正しい。今もし、この状況で助けを求めればあの人達に迷惑が掛かってしまうかも知れない。ましてや口封じのために殺されてしまうかも知れない。そうなってしまわないように咲夜と影兎は無言を選んだ。
だが男は違った。口端を吊り上げると不敵に笑った。
「お前らは……協力してくれるか?」
先程咲夜に投げかけたときの声よりも低く、不気味さが増しており影兎は思わず身震いを起こした。
「協力? なにの?」
二人はだんだんと近づいてくる。一人の手にはランプがあり小さな火種が中で燃えていた。僅か一メートル。もう目の前まで来た。ようやく二人の顔がランプの灯りによって見えた。
――数刻前。二人、もとい仕佐と条夜は帝国にやって来ていた。
二人が帝国に来た理由。それはあの時の爆破を追っていた所、魔族が絡んでいる情報を掴み王都内を駆け巡っているうちに帝国に逃げられてしまった。それを追い二人は帝国まで足を踏み入れたのだ。しかし、闇雲に探しても見つかるわけがないため条夜の案でこの地下水路を調査することになった。
――そして現在。歩き回っていたところこの三人と出くわしたというわけだ。
(見たところ人っぽいけど……さすがに魔族なわけないよね)
仕佐は条夜に目配せをしながら見極めた。
「……おい仕佐、あの二人の服見てみろ」
条夜は三人には聞こえないように小声で言った。
仕佐は言われたとおり二人の服装を目を凝らしてみてみた。
――制服を着ていた。カッターシャツにハーフパンツ、ハーフパンツの色が仕佐の学校のとは少し違うので同じ学校では無いだろう。そしてもう一人、ランプの光が眩しいのか目をずっと覆っている人がいる。わかりずらかったがこれだけ目を凝らせば流石に分かった。女性だ。こちらもシャツにハーフパンツの姿で手提げカバン、いや学校のカバンを肩に掛けている。
「……同じ日本人の可能性があるよね?」
会話内容は聞き取られないよう口元を空いている手で隠し、仕佐も小声で条夜と話した。
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