第十七話 ヒーローはやってこない

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 仕佐と条夜がこそこそ話し合っている間、影兎と咲夜もまたこそこそと話していた。 「さあ、えっちゃん。ここで問題です」  咲夜が小声でそう言ってきた。影兎は素直になんだろうという気持ちで耳を傾けた。 「あの二人に違和感があります。それはこの次のうちどれでしょう」  そう言うと人差し指をまずは立てた。 「一つ、顔立ちが日本人っぽいので現地の服に着せられている感がある」  次に中指を続けて立てる。 「二つ目、さっき私達のことをジロジロ見てたから変態なのかも知れない」  影兎は思わずジト目で返した。続けて咲夜は薬指を立てる。 「そして三つ目、あの靴……どう見てもNIKEにしか見えない」  影兎は咲夜の視線の先を見た。足の側面がこちらと平行にはなっていないので完全には分からないが、確かにNIKEのマークである「レ」を左右反転させて少し右に傾けたものに見えないこともない。 「服と靴の違和感が……」 「だよね……例えるなら、すっごい陽キャくんが書店でラノベ買ってるのを見たときみたいな」 「あ~、なんか分かる……あ」  仕佐と条夜が話し終わり、咲夜と影兎の方に目線を移した。仕佐が口を開きかけたとき男が言葉を遮るようにして割り込んできた。 「……どうだ、協力してくれるか?」 「協力の内容を言ってくれな分からん」  条夜は男の言葉が終わるまで待たず半ば被せながら言った。すると男は意外そうにしながら口端を吊り上げて笑った。 「そうか、なら簡潔に言ってやる……俺は()()()勇者を殺し彷徨ってんだ」 (殺し、彷徨っている? どういうこと?)  咲夜は「彷徨っている」という意味が分からず自問する。同じく影兎も怪訝そうに目を細めながら咲夜の隣で唸っていた。 「つまり、こういうことだっ!」 「……ッ『物理シールド』!」  仕佐は間一髪『物理シールド』を展開し攻撃を防いだ。突然のことに理解が追いつかず影兎はただ棒立ちする。咲夜は守りに行こうと駆けたが少し間に合わなかった。  全てが条夜の瞬き一つの間に終わった出来事だ。条夜は何も悟ることが出来ず、何も知ることが出来ず一瞬にして仕佐が死にかけた。その事実に条夜は自分の甘さを痛感した。 (たかが瞬き一つの間に……戦況を全て視界に収めないといけない、か)  男が斬りつけてきた刃物は直径三十センチ程しかないが『物理シールド』越しの仕佐の心臓の位置を確実に捉えていた。  男はその場から飛び退き、咲夜達と仕佐達の丁度間に立つと猫背の姿勢でナイフを前方に構える。 (敵なのは間違いないだろうけど、あの動きは明らかに素人のそれじゃねえ……俺と仕佐だけじゃ逃げるだけで精一杯……いや、逃げれるかどうかも怪しそうだな)  条夜は自嘲気味に笑いを零す。
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