第十七話 ヒーローはやってこない

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「……よく今のを防げたもんだな。勇者でもないのによ」 「まるで、勇者以外は今ので殺せたみたいな口ぶりだけど?」 「チッ……イレギュラーか……楽に殺させてくれよ!」  そういうと懐から取り出した三本のナイフを勢いよく投擲した。 「『竜巻』!」 「『火炎弾』!」  仕佐の目の前に現れた『竜巻』がナイフの威力を殺し、仕佐の隣から放たれた『火炎弾』がナイフを燃やし尽くした。 「私がいるのを忘れて貰っちゃぁ、困るよ」  そう言いながら咲夜は両手を脇腹に置き、頭を少し傾けニヤッと笑った。 「……いいだろう。まとめて相手をしてやる……ほら、こいよ!」  その刹那男の姿が消えた。 「仕佐! 物理障壁を張れ!『土降らし』」 「『水球(ウォーターボール)』!」  条夜の『土降らし』により大量の土がみんなの頭上に降ってきた。それに咲夜の『水球』が合わさり泥となる。 「いた! えっちゃん攻撃!」 「『弓生成』『付与(エンチャント)』『氷刃』」  僅かに空中に浮いた泥を捉え『氷刃』が付与された弓を引く。矢は直線を描き真っ直ぐ飛来した。が、泥へ到達する前に弾き飛ばされてしまう。その一瞬何かが煌めいた。 「しゃがんで!」  間一髪、頬を擦っただけで重症にはならなかった。ナイフはそのまま水路に音を立てて墜落。  今度は咲夜が男に向かって距離を詰める。ナイフの軌道から居場所を特定したのだ。低い姿勢で走り、男の足下まで来ると左足を軸にして右足で地面すれすれを撫でるように半円を描く。かかとは男の足首にヒットし一瞬体勢が崩れる。そこへたたみかけるように影兎が『氷刃』を纏った矢を放つ。男は手に持っていたナイフを投擲し軌道を逸らした。矢は男の後ろにいた仕佐へと飛んでいく。仕佐は微動だにせず、それどころか回避行動さえとろうとしていなかった。だが仕佐に到着する前に先程展開させていた『物理障壁』に阻まれ地面へと落下する。  咲夜と影兎の連携プレーにより男を圧倒していく。仕佐と条夜は付け入る隙が無く呆然と眺めている。仕佐が介入しようと右手を水平に持ち上げるが条夜に制止された。 「下手に手出ししない方が良い。返って邪魔しちまうかもしれないからな」  仕佐は渋々手を下ろす。二人が話している間にも咲夜と影兎は男を圧倒していく。  ――僅か一瞬タイミングがズレた。流石にずっと双方に意識を集中させて合わせるのにも限界があったらしい。影兎の矢を放つタイミングが少し遅かった。男はその一瞬の隙を狙い反撃を開始した。目前の咲夜の攻撃をいとも簡単に避けると、刹那の間で男は影兎に詰め寄った。影兎は咄嗟のことに反応できず男に吹き飛ばされる。 「えっちゃん!」  男は影兎の首根っこを掴み、じわじわと持ちあげる。影兎は苦しそうにうめき声を上げながら男から離れようとするも無力に終わってしまった。とうとう影兎の足は地面から離れてしまう。
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