第十七話 ヒーローはやってこない

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「マキシマっ……だめだ。あいつに当たってしまう」 「さあどうする? 勇者。いや……()()()()された()()()()()()()()!」  咲夜の鼓動がワンテンポ早くなる。それを気取られぬよう咲夜は冷静を保った。だが仕佐は違った。 「不正召喚って何? 僕たちはちゃんと神官に召喚されたけど」 (違う……多分だけどそういう意味じゃない! なにか、何かもっと別の嫌な予感がする……)  咲夜は何かを感じとっていた。だがそれは端的なもので本質を捉えることはできていない様子だった。男が言っていること自体は理解できるがその全容が読めない。それ故に迂闊に喋ることも出来ずにいた。 「神官? …………ああ~、お前らもしかしてアスタリアで召喚されたのか!」  男は実に愉快そうに言った。そして哀れむような目で咲夜を見据えると瞼を閉じる。影兎に向けているナイフを手の平の上でぐるぐる回すと嘴を吊り上げ瞼を開き声を大にして発した。 「――お前らを殺す()()()()()()()()!!」  男は影兎を乱雑に放り投げた。影兎は地面に倒れ込み空気を吸うために咳を漏らす。咲夜は一瞬何が起きたのか理解できず反応が遅れたが、すぐさま影兎に駆け寄り頭を起こした。 「大丈夫?!」 「えほっ、えほっ……な、なんとか」  咲夜は安心したようにため息を漏らすと男に目を向けた。 「……『殺す必要がなくなった』ってどういうこと?」 「そのまんまの意味だ。じゃあな、また会わないことを祈るよ……」  そういうと男は踵を返し仕佐達の方へ歩いて行く。仕佐と条夜は咄嗟に身構えたが男は何もしてこず杞憂に終わる。仕佐の横を通り過ぎる際に男が仕佐だけに聞こえる声量で呟いた。 「おまえはいずれ殺す。あいつのようにな……」  仕佐は男が言った意味が分からず首をひねらせた。ハッと思い振り向くもそこに男の姿はなかった。 (あいつ……ってだれだ? この世界に知り合いなんているわけないし)  仕佐が考えている間、咲夜は影兎の腕を自身の肩に回し立ち上がらせていた。 「えっちゃん、歩けそう?」 「大丈夫。たぶん……」  そう言って影兎は咲夜から離れ自力で歩き出そうとしたが、数歩歩いたところで何かがプツンと途切れたように膝をついて倒れた。 「全然大丈夫じゃないでしょ! ほら、肩貸すから行くよ」 「――待ってくれ!」  条夜は悩んだ末に咲夜達に声をかけた。思ったよりも大きな声が出てしまい、全員が条夜の方を向いた。しかしそんなことは気にせず数歩前へ進む。そして意を決したように条夜は咲夜に問いかけた。 「……お前たちも、日本人。なのか?」
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