第十八話 憶測と推測

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第十八話 憶測と推測

         ◆ ◆ ◆ 「あれは……奴隷か? どうやって入り込んだんだ?」  ――というのも数時間前。危機感を感じた蒼磨は応接間を出てテラスで涼んでいた。とはいってもまだ日は出ており太陽が暑苦しかったが。本来ならばテラスに来るより先に咲夜と会って情報交換をしたいところだったが、どうやら咲夜と影兎が同じ部屋にいるようなのでやめておいたのだ。テラスに来たはいいものの特にすることもなく城下町を見下ろしていたところ、変な動きをしている輩を見つけ鑑定したところ「奴隷」だったというわけだ。  そして今、その奴隷は門番のいる正門から堂々と侵入してきたっぽい。というのもその奴隷が正門から入ってきたのだろうことはわかるが一人で入ってきているのだ。それも付き添いも、主人もなしに。  もしかしたら侵入してきたのではなく呼ばれたりして歓迎された可能性もあるが、まずそれはありえないだろう。それはなぜか、理由は簡単。膝下まで伸びているフード付きのケープで全身を隠し、あろうことかこちらに向かって走ってきている。 「……どこに向かってんだ」  ちょうどテラスの真下が入り口なため身を乗りださないと奴隷の様子が伺えない。かといって身を乗り出してしまうと見つかってしまう恐れがある。蒼磨は考える素振りすらせず断念した。  室内に戻ると咲夜が動いていないか探るため再び索敵をした。 「あいつらまだ一緒に……というか、寝てんのかこいつら?」  一向に二人の魔力反応が動かないのを見るにもしかしたら寝ているのかもしれない、そう蒼磨は解釈するとこれからどうするか考えた。  まず一つ目、あの応接間に戻る。別に戻ってもいいが蒼磨の機嫌が今よりも悪くなるのは確実だろう。  次に二つ目、咲夜を起こし情報交換をする。これも現実的ではない。男が一緒にいる部屋に蒼磨が乗り込んだら何が起こるかわからない。影兎に限ってなにか起こることはないだろうが。  そして三つ目、もしものことに備えてこの城の内部構造を知る。この城、いや、この国にはなにか他とは違う違和感がある。そんな気がしてならない。 「とりあえず、一旦応接間に戻ってみるか」  蒼磨は美怜の魔力反応をたどり応接間に戻った。扉の前に来たところで軽く深呼吸をした。取っ手に手をかけたところで突然後ろから話しかけられた。 「おや、戻っていらしたのですか。ちょうどお菓子をお持ちしたところですよ」  振り向くとそこには大量のお菓子をワゴンに乗せて運ぶモロノさんの姿があった。これでもかと言うぐらいに三段の台の上にお菓子が積まれている。マカロン、クッキー、ケーキ、チョコ。蒼磨は見ているだけで胃もたれしそうだった。   「俺は遠慮しとく。甘いものはそんな好きじゃない」 「左様ですか……では紅茶でもどうでしょうか?」  さすがに、こっちの世界に来てからずっと何も飲んでいなかったので蒼磨は断らず受け入れた。 「……」 「……」 「……失礼します。お菓子をお持ちいたしました」  そう言いながらモロノさんは応接間に入っていく。 (さっきの間は何だったんだよ)  蒼磨が応接間の扉を開けようとせず突っ立っていたが、モロノさんもなぜか応接間の扉を開けようとせず蒼磨を見ていた。しびれを切らしたのか、それとも何かを感じとったのかモロノさんは応接間に入っていった。
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