第十八話 憶測と推測

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「壁? そのようなものはどこにも……」 「猟魔、メガネを貸してやれ」  猟魔は頭に疑問符を浮かべながらも今掛けているメガネを美玲に渡す。美玲はメガネを掛けると窓の外に目を向けた。 「えっ?」  つけたばかりの眼鏡を一度外し肉眼で見ると再びメガネを掛けた。 「一応言うがそのメガネは普通のメガネだ」 「僕がついさっきまで着けていたものですからね」 「というかそのメガネで太陽反射して透明な壁が見えてるだけだがな」  蒼磨はあっけらかんとそういった。日は傾き始めているので日光が直に降り注いでくる。「それに」と続けると廊下側を指で差した。 「俺が廊下に出てすぐモロノに会ったときにこう言われたんだ。『迷子ですか?』ってな。普通初めて来た場所でもよっぽどの方向音痴でもない限り迷子になることなんてねぇだろ? それをあいつはさも同然かのように言いやがった。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な」  と、ここまで一気に話すと一呼吸入れ、指を鳴らすと先程『剣作製』で創った剣を消滅させた。机がある位置まで歩くとすっかり冷めてしまった紅茶を手に取り飲み干した。ティーカップを取り残されていたソーサーに置くとソファーに深く腰掛けた。  美玲はメガネを外すと猟魔に感謝を伝えながら返した。 「……だいたいは分かりました。それで、これからどうするのですか?」 「俺が今から――」  蒼磨が言おうとした直後、勢いよく何かが爆発した。 「きゃっ」「うわっ」  音がした方、窓から外を見やるともくもくと煙が立ち上っていた。 「何が起きたんだ?」 「とにかく行ってみましょう」  蒼磨達は応接間を出るとマップを見ながらその場所へと向かった。どうやらなんらかの誤作動で魔方陣が暴発してしまったらしい。爆発の影響で窓ガラスが割れ破片が周囲に散らばっていた。 「それほど大事ではありませんね、安心しました」 「ガラスの破片が危ないから先に掃除した方がよさそうですね」  早速美玲と猟魔が取りかかろうとすると遮るように立ちはだかった。見ると給仕のようだ。年齢は四十代といったところ、両手をお腹辺りで重ね申し訳なさそうな顔で二人を見ている。 「……ありがたいですが、お手を掛けさせる訳には」 「いえいえお気になさらず、したいだけですから」 「いえ、そう言うわけでは……」  蒼磨は歯切れの悪さに訝しんだ。蒼磨が口を出そうとしたところ扉が勢いよく放たれた。 「ちょっとなにをしているのですか! とっとと片付けなさい!」 「申し訳ありません。姫殿下すぐ片付けますので」  来たのは紛れもないヴァルネスだった。美玲達と話していた時とは全く違う声色で言い放ち、怒りを表に出していた。だが蒼磨達の姿を見つけるとその威勢は急激に低下した。 「こりゃびっくりだな~」  蒼磨が分かりやすく煽るとヴァルネスはドレスの裾を掴み歯ぎしりをし始めた。   「さっきまでのキャラは作ってたのか~、道理でうさんくさいと思ったんだよ~」 「どうしてあんたらがここにいんのよ」 「あ、無視? 無視は悲しいな~、せっかくさ()()()()() ()来たんだからもうちょっと言うことねぇのかよ~」  その言葉を聞いた途端ヴァルネスはより顔を引き攣らせ血を頭に上らせていた。それを見た蒼磨はますます愉快そうに笑いこう続けた。 「勇者だからってお前らの味方すると思ったら間違いだぞ。俺は俺の意思で動く、この世界がどうなろうと知ったことじゃねぇしどうなっても俺は気にしない。なぜなら! 俺はこの世界の人間じゃないから!」  そう告げると蒼磨はこの部屋を後にした。 (ここから出る手筈は整った。だが、あいつらを見捨てるのは……いやなに今更甘いこと言ってんだ。一番年上だからつったって……いや、あとでメッセ送れば分かってくれるだろ)  少し後悔を残しながらも蒼磨は先程の部屋、ではなく謎の奴隷を見かけたテラスへ向かった。  ──その頃、置いて行かれた美玲と猟魔は頭を抱えていた。 (いくらシナリオ通りが嫌いだからと言ってもこれはいくら何でも……)  美玲と猟魔は互いに顔を見合わせこの場の収めかたについて悩んでいた。
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