立ち、尽くす者たち

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立ち、尽くす者たち

背を守るかのように立つ、 二本の堅木(かたぎ)の凜々しき姿。 時代に呑まれて形を失う (やしろ)(みさお)を立て、尽くしていた。 冬を控えし紅い山。 吹く風は酷く、細道を下る。 愚痴(ぐち)をこぼして登ってきたが、 堅木を前にし、身を引き締めた。 誰に言われて頼まれて こんな辺鄙(へんぴ)なところに居るのか、 俺には予想も出来ないけれど 彼らの心に胸を打たれる。 使いの帰りも同じ道。 御神酒(おみき)の一つも買ってやろうな。       『立ち、尽くす者たち』  ********  人気の少ない山道の脇に、人知れず朽ちた、小さなお社があって、その両脇を二本の大きな木が守っている。そんなイメージから作った作品。  実際にある風景じゃ無いけど、頭の中にそんな絵がね、浮かぶのさ。  幹の質が堅い樹木のことを堅木(かたぎ)って言うんだって。樫(カシ)とか楢(ナラ)、欅(ケヤキ)とか建材によく使われる種類が当てはまるね。  堅木って言葉の響きは、そのまま堅気や気質(かたぎ)に通じて、真面目そうな印象を受ける。  守り神として守るべき対象のお社が、人に忘れ去られて崩れてしまっても、そうだね……その姿形を変えてしまっても、その場を動かずに守り続けているんじゃないかなって、漢字や音の響きからイメージしてた。  そう思うのは、人間の勝手な解釈なんだけども。木は動けないんだから、その場に居続けるしか無い。守りたいわけじゃなくて、動けないだけ。  事実を事実として認識しない人間のエゴや理想論によって、他の種族の命の価値が変動していく。いかに人間の気を惹いて重要視してもらえるのか、人間の生活圏の近くで生きる動植物の寿命は、こうして決まっていくんだ。  こういう人間の想像性が、数多の神様を生み出してきたんだろうなって考える。神格化されたものたちに聞いてみたって、自分たちを神様だとは言わないだろうし。言葉をしゃべれないものたちに、あんまり重荷を背負わせるのも申し訳ない気がしてくるのさ。  どうせ信仰するのなら、自分で生み出した神様がいいなってわたしは思うんだ。  さて、どんな神様がいいかな~。  
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