恋の病

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恋の病

午後2時55分、七音は荒川の監視を宮本から代わる為、荒川の部屋へ向かっている。俺はこのタイミングを待っていた。四葉と2人で話すタイミングがずっと無かったけど、今がその時だ。七音は四葉に好意を持っていて、俺が四葉と2人っきりで会っていると違和感を覚えるだろう。七音は荒川を監視しないといけないから、俺が四葉と2人っきりで会っていてもどうする事も出来ない。 七音が荒川の部屋に入った時、俺は四葉の部屋をノックした。 ガチャ 「どうしたの?」 「四葉さん、1875について話があるんだ。外を歩きながら話さないか?」 「分かった。準備して行くわ」 「じゃあ、先に行っとくよ」 ガチャ 俺は七音の目を気にしながら、静かに外に出ようと思ったその時! ♪♪♪~ ドキッとした。そうだった。玄関を開けると音楽が流れるんだった。俺は急いで外へ出てドアを閉める。別に悪い事をしている訳でも無いのにと思ったけど、七音に後ろめたい気持ちがあるという事は悪い事をしているのだろう。 別荘から少し離れて海を眺める。波がザバーン、ザバーンと寄せては返す。沖縄や南国の海に比べると透明度は落ちるけど、ソコソコ綺麗だ。殺人事件さえ起こらなければ、皆で泳げたかもしれないのに・・・。 5分ぐらい経っただろうか。振り向くと四葉が近くまで来ていた。 「双六君、1875の謎が解ったの?」 「ああ、進行役の人が居ないから1億円が無くなって残念だけどね」 「そうね。殺人事件が起こったのも当然辛いんだけど、1億円が無くなっちゃったのもショックよね」 「やっぱり四葉さんもそうなんだ。俺、友達と焼き肉食べに行く予定だったんだよ。四葉さんとチーム組めて1億円が手に届くと思っていたから・・・」 「私も一緒。友達とショッピングしてご飯食べよって約束してたのにね」 「ハハハ、全く一緒だな。やっぱり邪な気持ちだと上手く行かないな」 「そうね。それで、どうなの? 1875の謎は。私、結局分からなかったから」 「分かる訳無いよ。だって四葉さん、競馬しないだろ?」 「競馬?」 「ああ、1875は競馬の血統に関係があるんだ」 「ケットウ?」 「うん、競馬は血統のスポーツって呼ばれてるのは知ってる?」 「まあ、何となく聞いた事がある程度かな」 「競馬で強い馬を生産する方法の1つとして、近親の交配をさせるってのがあるんだ。例えば、A っていう強い馬が居たとして、A の子孫のオス馬と A の子孫の メス馬に子供を産ませれば、A の血が濃くなって、A の遺伝子が強くなり、結果、強い馬が出来るって考え方なんだ」 「へー。それで?」 「近親が強すぎたら色んな弊害があるのは人間でも一緒だよね? 従兄弟同士より近親になると結婚出来ない法律もあるぐらいだから。近すぎず、遠すぎない血の濃さでベストなのが18.75%なんだ」 「なるほど、1875ってのは18.75%の事なんだ。えっ?! まさか・・・ 」 「そう、俺達は皆、異母兄弟だったんだよ。偶然似ていた訳じゃ無くて、必然だったんだ」 「そ、そんな事って・・・」 「信じられないだろ? あ、ヒントの12っていうのは 3×4、つまり、3代前にあたる、ひいお爺さんと4代前にあたる、ひいひいお爺さんが同じ人物で、その掛け合わせって意味なんだ。『F』はファシリテーターじゃなくて、ファーザーだと思う」 「結局、進行役の人は四葉・・・私達の父親だったの? でも、若過ぎない?」 「そうなんだ。だから、四葉さんが言った、荒川さんの1人2役説も否定出来ない。でも、目元と口元をサングラスとマスクで隠して、若い喋り方をしていたから、若者だと勘違いしたのかもしれない。俺は彼と喋った時に、荒川さんとは違うと感じたんだ」 「そうね、双六君はお父さんとしっかり喋ったんだもんね」 「そうだ、四葉さんは俺達の区別ってついてるのか?」 「区別?」 「俺達って見た目がよく似ているだろ」 「ああ、双六君と七音君はよく似ているけど、何となく分かるわ。七音君の方が目力があってふっくらしている印象かな。ちょっと分かり難いのは、荒川さんと宮本さん」 「やっぱりそうか」 「顔が似ているっていうより、雰囲気が一緒だから。でも、荒川さんの方が険しい顔って印象・・・」 その時! 四葉は俺に近付き、両手でぎゅっと左腕を掴んだ。ドキッとした。恋人かよ! と心の中で突っ込んだと同時に、女性として意識している事をハッキリと自覚した。異母兄弟だって言ったばっかりだよな、と思いながら四葉を見ると、怖がりながら遠くを見ている。 「あれ見て」 四葉が見ている方向の100メートルぐらい先には、古びた1人用と思われるテントがあった。最近設置されたものではなさそうだ。この島に来た時に、視界には入っていたかもしれないけど、特に気にも留めていなかった。俺は四葉に言う。 「もしかして、あそこに隠れてたんじゃ・・・」 「それは無いと思うわ。隠れる意味が無いもの。多分、ずっと前に立てられて放置されてるだけだと思うけど・・・」 「調べよう」 「・・・うん」 俺達はテントの方へ歩く。テントまで10メートルぐらいになった時、四葉は俺の左腕を掴み、速度落とすよう促す。 「ここに居て、見てくるよ」 「・・・うん」 テントは古いながらもしっかり張り付けられている。入り口はファスナーで開くタイプのようだ。この中に人が居るとは考え難い。もし、居るとすれば、拘束されているか死んでいると思う。かと言って、安心は出来ない。俺は荒くなる息遣いを感じながら、ファスナーを一気に開けると同時に、大きく一歩退いた。反応は無いし、誰か居る気配も無い。恐る恐るテント内を覗く。・・・何も無い。最近使われた様子も無いようだ。 「四葉さん、大丈夫」 四葉は安心した様子で近付く。俺は靴を脱いでテント内に入り、中の広さを確認して四葉に聞く。 「これって1人用かな?」 「私も入ろ」 四葉も靴を脱ぎテント内に入った。 「意外と広いね、秘密基地みたい」 四葉は子供みたいな事を言った。俺はテントで横になり呟く。 「姉弟なら小さい頃にこんな風に遊べたのにな。俺、妹がいるけど、10歳も離れているから」 四葉も隣に寝て呟く。 「私も一緒。8歳離れた弟がいるけど一緒には遊べなかったな。双六って弟だから呼び捨てで良いよね、あはは」 「ハハハ。でも、出来の良い姉ちゃんがいたら、肩身が狭い思いをしたかもな」 「大丈夫よ。私が勉強教えてあげるから」 「俺は弟として、四葉姉ちゃんに何をしてあげれるんだろう?」 「さっきもそうだったけど、怖い系は助けてくれるじゃない」 「ああ、俺が守るって約束したしね」 「ありがとう、カッコ良かった」 四葉はそう呟き、俺を潤んだ目でじっと見つめてきた。 「・・・」 「・・・」 5秒ぐらい沈黙があったように感じた。実際はもう少し短かったと思う。そして、四葉は俺から目を逸らし、スッと起き上がり言った。 「そろそろ行きましょうか」 四葉はこっちを見る事なくテントを出た。 何だ今の間は?! まさか・・・嘘だろ? キスのタイミングだったのか? 恋愛経験が少な過ぎて分からない。 恋に落ちる時というのは、恋のキューピッドがハートの矢を心臓に突き刺すようなイメージだと思っていたけど、そんな淡い色の映像では無かった。黒いハートのしっぽがついた笑顔の小悪魔に、黒いフォークのようなもので、いつの間にか心臓を突き刺されている感じ・・・。後ろめたいと言うか、悪い事に加担させられているような感覚・・・。母親が違うとは言え、仮にも姉弟・・・。だから、そう感じたのかもしれない。確か異母姉弟は結婚できない筈・・・。だけど、恋愛は自由と言えば自由だ。四葉のきつめの冗談なのか? 度胸の無い男と思われたんじゃないだろうな。誰か教えてくれ~! 俺の中の理性とは裏腹に、四葉への想いは強くなっている。これが俗に言うロミオとジュリエット効果なのだろうか? 姉弟という障害を乗り越えようとしているのかもしれない。 四葉! どうして君は四葉なんだ! 俺が訳の分からない葛藤に悩み、心の中で4流役者を演じながらテントを出ると、四葉は既に100メートル近く先に進み、桟橋の方へ歩いていた。俺は、ちょっと待てよと言わんばかりに駆け足で四葉に近寄る。俺が来るのを確認して四葉が言う。 「ちょっと、別荘の周り調べて見ましょうか」 「そうだな」 俺達は別荘の裏側へ回った。四葉は別荘の窓を見ながら言う。 「ここがちょうど進行役の部屋の窓だね」 「足跡は・・・さすがに無いか・・・」 「警察とかに調べてもらったら分かると思うけど・・・」 「じゃあ、ここ歩いたらダメじゃないか」 俺は慌てて退き、どんな足跡がつくのかと靴の裏を見た。 「あ、土がついてる」 別荘の玄関側は地面が乾燥していて靴に土がつき難いけど、裏側は森で地面が湿っている為、靴に土がつきやすい。 「これって靴の裏に土がついてる奴が犯人じゃないのか?!」 「それは私も考えたわ。でも、靴に土がついてる人は居なかった。犯人が窓から逃げたって言う荒川さんの嘘なのか、犯人が気付いて靴を洗ったり履き替えたりしたか・・・」 「そうか・・・」 名推理だと思ったけど、俺が気付くような事は、もちろん四葉も気付いている。 「じゃあ、そろそろ戻りましょうか」 「そうだな」 一応、タイミングをずらす為、俺は後で別荘内に入る事にした。四葉が別荘内に入るのを見送った後、桟橋の方へ向かい、押し寄せては返す波の音を聞きながら、ボーッと水平線を眺めた。よく分からないけど、こういうのを恋人と眺めるのがロマンチックなのか、とか考える。昔の映画だったか、何かの漫画だったのかハッキリしないけど、砂浜に「好き」とか文字を書いて、恋人が気付くか気付かないかの瞬間に、波で流されて消えるみたいなラブストーリーのワンシーンがあったな、とか考える。その時、俺は足元を見てハッと我に返った。無意識のうちに、砂浜に「四」の三画目まで、右足で書いていたのだ。俺は素早く周りを見渡し、誰もいない事を確認すると、「四」の途中まで書かれた文字に、足で砂をかけて消した。我ながらヤバイだろコイツと思った。恋の病というのはこれか? と思いながら、念入りに文字を消す。息を切らして文字が消えたのを確認した時、自分が砂で消した跡によく似たものが近くにあるのに気付いた。自分が砂で消した跡は少しだけど、桟橋から森の方へ10メートルぐらい広範囲で消した跡がある。 まさか、七音も同じように?? いや、まさか西京大生がそんな幼稚な事・・・。でも、学力の偏差値が高い方が恋愛偏差値は低いかもしれない! 俺は、恋の病は自分だけじゃないと言い聞かせたいが為に、七音が「四葉大好きだー」とか「四葉愛してるー」とか書いた後に消したと思い込んだ。 しばらくして俺は別荘内に入った。見える場所に七音の姿は見当たらない。荒川の部屋にいるのか、キッチンか食堂か・・・。俺は何故か少しホッとしながら自分の部屋へ戻った。
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