説立証

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説立証

2日後 織田家で現場検証が始まっていた。加奈が会社に来ないので、同僚が電話を掛けたところ、何度掛けても繋がらなかった為、不審に思い、夕方に家まで来ると、加奈が死んでいたので通報したと言う。 警察官が家に入り調べたところ、2階の1室のドアが途中で何かに引っ掛かった。隙間から中の様子を伺うと、ドアノブで首を吊って死んでいる男性の死体と遺書があった。 遺書には「母親を階段から突き落として殺してしまったので、僕も死にます。母さんごめんなさい」と手書きの遺書が残されてあった。 それ以外、家の中に不審な点は無く、部屋が荒らされている訳でも無ければ、加奈と男性の死体の財布から金を盗んだ様子も無かった。 今回の事件の担当刑事森村が到着し、警察官から状況を確認する。一通り話を聞いた後、階段下で死んでいる女性を確認する。リビングにはハンドバッグが置いてあり、聞いていた通り、荒らされた様子は無い。財布から免許証を取り出し確認する。織田加奈で間違い無いようだ。 その後、男性の死体がある二階の部屋へ移動し、所持品を確認した。何処かへ出掛けようとしていたのか、ポケットには財布が入っている。 (免許証は無いのか……。保険証があるな……。織田伸介……。一応、遺書の筆跡鑑定を依頼するか) 加奈の両親が到着したので、森村は質問する。 「お父さんお母さん、娘さんの加奈さんに間違い無いですね?」 「はい……」 「加奈~! ああ~……」 母親は泣き出してしまった。森村は死体のある二階の部屋へ加奈の両親を連れて行き、質問する。 「こちらはお孫さんの伸介さんに間違い無いですね?」 「多分そうだと思います。最近会っていないんですが……」 森村は特別難しい事件では無いと判断し、特に深く調べる事無く警察署へ戻った。 (引きこもりの息子が母親に働くよう責められ、逆上して母親を階段の上から突き飛ばしたのだろう。そして、自責の念に駆られた息子は、ドアノブで首を吊って自殺……。よくありそうな事件だな) 翌日の夜 加奈の父親が喪主となり、しめやかに通夜が行われた。家族葬の為、親戚数名が列席した。 「加奈さん可哀想ね……。女手1つで育ててきたのに、その子に殺されるなんて……」 「育て方が悪かったと言えばそれまでだが、多感な時期に離婚した影響は大きかったんだろう」 「それより伸介君、随分太ったわね。小さい頃の面影が無いわ」 「あの頃は可愛かったけどな。10年以上経つんだ。引きこもりだったみたいだし、整形していたとしても、誰も分からないな」 後日 筆跡鑑定の結果、遺書は伸介本人が書いた物と確認された。だが、家の至るところから、被害者とは違う人物の、最近ついたと思われる指紋が見つかった! しかも、遺体の首に微かに吉川線がついている! 森村は自分の推理ミスに心臓を掴まれるような衝撃を受けた。 (これは他殺だ! 第3者が介入しているのか……。そうなると伸介はロープで絞め殺された後、自殺のように偽装されている……。まさか……母親も?!) ◆吉川線とは 絞殺された時、被害者がロープ等の首を絞める物を解こうと抵抗し、自分の首を傷つけた時に出来る傷跡の事。吉川線があれば自殺とは考えにくい◆ 森村は当然、第1発見者である加奈の友人と、離婚した加奈の元夫の2人を、犯人の最有力人物として疑った。だが、指紋を確認すると、家中についているものと一致しなかった。さらに、加奈と伸介のスマホに登録されている人物全ての指紋を採ったが、家中の指紋とは一致しなかった。 (どうなっているんだ?! 全く関係無い泥棒が犯人なのか?! だが、部屋を漁った様子も無いし、金目の物も置いてある……。訳が分からない……) 「悟志、ご飯置いとくね」 「ああ」 悟志の母親が階段を下りる音を確認した後、伸介はドアを開け、食事のお盆を部屋に入れた。 『引きこもり、いつの間にか他人と入れ替わっていても、親でも気付かない説の検証しませんか? 協力者には十万円進呈します』 とパソコンに映しだされたオンラインゲームのウインドウを閉じようと、マウスを動かすその腕の小さな爪痕の上に、1粒の涙がポトリと落ちた。 完
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