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「つまんないの……」
自嘲気味につぶやいたそのとき、ぽろりと涙が一粒落ちた。
「あ、あれ。ごめん……私、別に森岡さんのこと好きだったわけでもないし。つまんないとか、ちゃんと自覚あるから平気なはずなんだけど……」
ははっ、とわざと声をたてて笑って、急いで濡れた頬を拭く。
「私たちも戻ろう。ホタルも、仕事あるでしょ?」
目元を拭いながら笑いかけようとしたとき、ホタルの両腕が私を包み込んだ。
大きなホタルの身体が私を覆うように折り重なって、きつくきつく抱きしめられる。
驚いて、腕の中で息を止めていたら、ホタルが小さな声で何かつぶやいた。
「つまんなくなんかねーよ」
「ホタル……?」
聞こえてきたその言葉が、空耳ではないかと一瞬耳を疑う。
「つまんなくなんかない。だから、あんな見かけだけの軽そうなやつに簡単に騙されんな」
だから、ホタルがもう一度そう言ってくれたとき、胸が詰まっていっぱいになって。嬉しくてちょっと泣きそうになった。
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